物理学専攻談話会(セミナー)

談話会は、月1回、原則として金曜日 17:00 より、Z103 教室で開かれます。2、3、8、9月は原則としてお休みです。学部学生以上、他専攻、他学部の方も対象のセミナーです。皆様の参加お待ちしています。

2025年度

題目:高エネルギー加速器によって拓く素粒子物理学の次の展開 ―ヒッグス場の精密測定から新物理の直接探索への発展をリードする 「リニアコライダー計画」―

講師:石野 雅也氏(東京大学 素粒子物理国際研究センター)
日時:2025年5月2日(金曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

 素粒子物理学の「学問の流れ」をあらためて俯瞰すると、精密測定による実験結果が既知の物理法則と(わずかに)異なることを手がかりに、 より高いエネルギー領域で実験を行い、新粒子・新現象を発見することで、学問が進歩してきた例が多く見られます。

 現在の素粒子物理学は、ヒッグス粒子の発見とその性質の測定を通じ、電弱スケールまでの物理現象を記述できる標準模型を確立しました。 しかし、未統一の相互作用、暗黒物質の正体、物質優勢の宇宙が形成されたメカニズム、質量階層性問題など、未解決の課題が多く残されています。新たな物理がより 高いエネルギースケールに存在すると考えるのが自然である一方、そのスケールがどこにあるのか、科学的根拠をもって予測できていません。

 このような状況において、素粒子物理学を次のステップへと進める現実的かつ有力な手段の一つが、「電子・陽電子衝突型リニアコライダー計画」です。 電子・陽電子衝突による高精度な測定と、線形加速器という形状が可能にする衝突エネルギーの拡張性を考慮すると、既存の技術水準において最も優れた、 合理的なアプローチと考えられます。

 本講演では、リニアコライダーによる物理研究の可能性、加速器の開発状況、そして同様の目的を持つ他の計画との比較を通じ、 この計画の意義・アイデアについて議論します。

談話会チラシ

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


2024年度

題目:"ノーベル賞を獲った男"に倣ってノーベル賞を獲るための次世代加速器を目指すべし

講師:吉田 光宏 氏(高エネルギー加速器機構・加速器研究施設)
日時:2024年12月12日(木曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

20世紀は加速器がノーベル賞を生産する時代でしたが、21世紀になってこの流れは止まってしまいました。私が素粒子実験から加速器に移ったきっかけは、Wボソンを強引に発見したカルロルビアの事を綴った「ノーベル賞を獲った男」という本のインパクトが大きかった事と、丁度そのタイミングで加速器の師匠に出会った事でした。これに倣って、21世紀にノーベル賞を獲るための次世代加速器をどのように実現するのかというお話をしたいと思います。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:ニュートリノの質量をめぐる現状とAXEL実験の開発の話

講師:市川 温子 氏(東北大学大学院理学研究科)
日時:2024年12月5日(木曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

ニュートリノの質量の絶対値は、いまだ不明です。ニュートリノの質量と密接に関わる問題として、ニュートリノがディラック粒子なのかマヨラナ粒子なのかという素粒子物理学や宇宙物理学にとって重要な問題があります。
このセミナーでは、まずニュートリノの質量の絶対値をめぐる現状について報告します。後半では、ニュートリノがマヨラナ粒子なのかどうかを解明するために建設中の高圧キセノンガス・タイムプロジェクションチェンバーAXEL検出器について、性能を極めるための技術開発の話をします。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:第三の固体状態:準結晶の超伝導

講師:竹森 那由多 氏(大阪大学大学院理学研究科)
日時:2024年11月19日(火曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

2018年に、Al-Mg-Zn 準結晶でバルクの超伝導が発現することが発見された。その電子比熱の温度依存性は弱結合的な超伝導特性を示唆している。並進対称性のない非周期結晶における弱結合超伝導は非自明な問題であり、通常の周期系には見られない格子構造の特異な幾何学的性質と強相関効果を同時に取り扱う必要がある。本講演では、BdG平均場理論や実空間動的平均場理論を用いた、準周期系における超伝導に関する理論的研究について概説する。特に、周期系におけるBCS超伝導から逸脱した、有限重心運動量を持つクーパー対によって形成される非BCS型の弱結合超伝導について議論する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:ブラックホールと量子情報

講師:玉岡 幸太郎 氏(日本大学)
日時:2024年11月8日(金曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

宇宙の始まりなど時空にまつわる物理を理解する上で、量子重力理論の構築・理解が必要不可欠だと期待されている。量子重力理論の有力な候補としては弦理論がよく研究されているが、教科書的な(摂動的な)定式化では満足のいかない点が数多く存在し、非摂動な定式化が必要とされている。ブラックホールは、このような文脈で量子重力理論を理解するための試金石として、重要な役割を果たしてきた。
本発表では、ホログラフィー原理および量子情報理論に基づく量子重力理論の近年の進展を、特にブラックホールの諸問題に焦点を当てながら紹介する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:4f13配位のYb磁性半導体における磁気フラストレーション効果

講師:鬼丸 孝博 氏(広島大学大学院先進理工系科学研究科)
日時:2024年8月1日(木曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

三角格子やカゴメ格子などの幾何学的フラストレーションが内在する磁性体では、スピン間の相互作用の競合によって量子スピン液体などの非自明な基底状態の発現が期待される。これまで研究対象の多くは、d電子を含む半導体や絶縁体、有機磁性体であったが、近年、4f13配位のYb3+イオンを含む磁性半導体が注目されている。Yb三角格子系のYbMgGaO4やNaYbX2 (X = O, S, Se)では、Yb3+の結晶場基底状態がエネルギー的に孤立した二重項であるため、有効スピン1/2の系とみなすことができ、ゼロ磁場で磁気秩序が観測されないため、量子スピン液体の可能性が議論されている [1,2]。一方、直方晶YbCuS2では、Ybがジグザグ鎖を形成しており、最近接と次近接の相互作用の競合により多彩な量子相の発現が期待される。比熱の測定から、相転移を示すピークがTO = 0.95 Kで観測された [3]。粉末中性子回折実験によると、TO以下で格子と非整合な楕円ヘリカル磁気構造をとり、秩序モーメントは基底二重項から期待される値より1桁小さい。また、核四重極共鳴の実験からTO以下でギャップレス励起の存在が指摘され [4]、ジグザグ鎖における異方的な相互作用によるスピンネマティック相関の発達の可能性がある [5,6]。本セミナーでは、直方晶YbAgSe2やYb欠損三角格子系Yb-Cu-Sの磁性に関する最近の研究についても紹介する。

[1]Y. Li et al., Sci. Rep. 5, 16419 (2015).
[2]M. Baenitz et al., Phys. Rev. B 98, 220409(R) (2018).
[3]Y. Ohmagari et al., J. Phys. Soc. Jpn. 89, 093701 (2020).
[4]F. Hori et al., Commun. Mater. 4, 55 (2023).
[5]H. Saito et al., J. Phys. Soc. Jpn. 93, 034701 (2024).
[6]H. Saito and C. Hotta, Phys. Rev. B 110, 024409 (2024).

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:「装置開発」について考える:技術開発とその応用

講師:小濱 芳允 氏(東京大学物性研究所)
日時:2024年7月23日(火曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

ノーベル賞に至ったニュートリノや重力波の観測など、新規実験装置の開発は物理学を進歩させてきた。 この傾向は巨大な実験装置を用いる宇宙物理学で顕著と思われるが、一方で物性物理学では市販の実験装置が普及し、実験装置の開発が進まなくなっている。
しかし物性物理学における実験装置は小さいものが多く、アイディアと行動力、そして少額の資金で製作できる場合が多い。 このような事情を鑑みると、資金力とマンパワーに苦しむ現代の日本だからこそ装置開発は推奨されるべきであり、これからの日本の物性物理コミュニティに必要な技能と思われる。
そこで本講演では、“安定化パルス磁場の発生[1]”や“パルス磁場下比熱測定技術の開発[2] ”、そして“パルス強磁場中性子回折実験[3]”など、物性研究所で行ってきた装置開発の事例を紹介し、 装置開発の重要度を改めて振り返る。これにより、開発した装置がどのように物性物理学に貢献できるかを議論したい。

[1] Yoshimitsu Kohama and Koichi Kindo, Rev. Sci. Instrum. 86, 104701 (2015).
[2] Yoshimitsu Kohama, Christophe Marcenat, Thierry Klein, and Marcelo Jaime, Rev. Sci. Instrum. 81, 104902 (2010).
[3] Taro Nakajima, Masao Watanabe, Yasuhiro Inamura, Kazuki Matsui, Tomoki Kanda, Tetsuya Nomoto, Kazuki Ohishi, Yukihiko Kawamura, Hiraku Saito, Hiromu Tamatsukuri, Noriki Terada, and Yoshimitsu Kohama, Phys. Rev. Research 6 023109 (2024).

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:放射線検出器の宇宙開発への応用

講師:岸本祐司 氏(高エネルギー加速器研究機構(KEK) 放射線科学センター)
日時:2024年6月14日(金曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

放射線検出器はその目的、用途によって様々なタイプのものが開発され利用されている。 本セミナーでは序論として検出媒体によって分類されるいくつかの代表的な放射線検出器に触れ、本論として放射線検出器の宇宙線量計への応用例である位置有感生体組織等価比例計数箱(PS-TEPC)の開発について述べる。
PS-TEPCは宇宙船内における宇宙放射線の空間線量計測を目的とした放射線検出器である。PS-TEPCは検出器を生体組織等価物質で構成すること、入射荷電粒子の3次元飛跡が取得できることをコンセプトとしており、宇宙飛行士の放射線安全管理に使用される線量当量と呼ばれる量をその定義に忠実に計測することができる。2016年には国際宇宙ステーションに搭載され、実際の宇宙放射線環境での動作が実証されている。現在は国際協力により建設が始まろうとしている月周回有人拠点ゲートウェイでの利用を目指した開発を進めている。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:先端情報基盤技術を活用したデータ解析技術から拓くエネルギーフロンティア実験

講師:前田順平 氏(神戸大学 物理学専攻粒子物理研究室)
日時:2024年5月20日(月曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

欧州素粒子原子核研究機構(CERN)で行われているLHC-ATLAS実験は、世界最大かつ最高エネルギーの陽子衝突型加速器、Large Hadron Collider (LHC)を用いた素粒子国際共同研究です。2012年におけるヒッグス粒子発見により、素粒子標準模型で予言されているすべての粒子が発見されたことになりました。しかしながら、標準模型はこれまでの実験結果を大変良く説明する一方で、暗黒物質の候補となる粒子の未発見などいまだ多くの謎を抱えています。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


2023年度

題目:ウラン化合物UTe2の超伝導状態

講師:石田 憲二 氏(京都大学大学院理学研究科)
日時:2023年12月26日(火曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

2018年に報告のあったウラン化合物UTe2の超伝導の報告は超伝導研究者に驚きを与えた[1]。なぜなら、超伝導転移温度は2 K程度にも関わらず磁場を特定の方向に印加すると60Tまで生き残り[3]、すべての結晶軸方向でスピン一重項超伝導から期待されるパウリ臨界磁場を大きく上回る[1,2]。また圧力下でも興味深い振舞いが見られ、静水圧下では0.3GPaを境に超伝導転移温度は上昇し、1.2 GPaで超伝導は3Kを示す。さらに、転移温度の上昇が見られた圧力領域では超伝導相内で新たな転移が見られ、異なる超伝導状態が実現する「超伝導多重相」の振舞いが報告されている[4]。これらの実験事実は、UTe2がスピン三重項超伝導を示唆する結果と考えられる。ただし、このスピン三重項超伝導は非常に稀であり、現在までその物性は理解されているとはいいがたい。
我々はTe元素を125Te (I = 1/2)に置き換えたUTe2単結晶を準備し、高磁場、圧力下、低温において核磁気共鳴(NMR)を行い、磁気励起や超伝導状態のスピン状態を調べている。現時点の実験結果を報告し、考えられる超伝導状態を議論する。

[1] S. Ran et al., Science 365, 684 (2019).
[2] S. Ran et al., Nat. Phys. 15, 1250 (2019).
[3] D. Aoki et al. JPSJ 88, 043702 (2019).
[4] D. Braithwaite et al., Commun. Phys. 2, 147 (2019).

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:大型加速器を用いた素粒子実験への機械学習適用

講師:岩崎 昌子 氏(大阪公立大学大学院理学研究科)
日時:2023年12月19日(火曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

近年、大型加速器を用いた素粒子実験への機械学習の適用開発が、活発に行われるようになった。機械学習、深層学習は、情報分野における最先端データ処理技術である。大量データから得られる情報を使って、データの「モデル」(入力変数と出力変数の関係性の記述)を構築することができる。あらかじめ明確なモデルを用意しなくても、様々なデータ処理が可能になる、という特徴がある。この特徴を活かすことで、従来よりも、高速、高効率、高性能なデータ処理が、期待されている。
本講演では、機械学習の簡単な導入、および、現在講演者のグループが進めている、大型加速器を用いた素粒子実験への機械学習の適用開発状況を紹介する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:非平衡 ― 学問分野の発展と熱力学の拡張 ―

講師:佐々 真一 氏(京都大学大学院理学研究科)
日時:2023年12月8日(金曜日)15:30〜
場所:Z103室(対面)

内容

流れや運動が本質的になる「マクロに動く世界」に対して、平衡系との対比を通して現象を理解したい。その動機にそって、豊かな現象を記述し、異なる階層間の関係を理解することで、現象の機構を明らかにする営みがなされてきた。談話会では、まず、19世紀から21世紀にわたる非平衡物理の大きな流れについて振り返る。その流れの中で、「熱力学は非平衡に拡張されるのか」という論点を切り出す。熱力学の拡張に関するレビューをしたあとで、熱伝導下相共存状態の熱力学量について問う。例えば、1気圧下の水を95度と105度の熱浴で挟んだときの気液界面が何度であるか、という基本的問題に対して、理論・実験ともに確固たる結果がないのが現状である。熱力学を非平衡へ拡張する枠組みである「大域熱力学」はその問題に答えることができて、100度から有意にずれることを予言する[1,2]。この大域熱力学の基本的な考え方と最近の数値実験の結果[3]について紹介する。

[1] N. Nakagawa and S.-i. Sasa, Phys. Rev. Lett.,119, 260602 (2017)
[2] N. Nakagawa and S.-i. Sasa, J. Stat. Phys.,177, 825-888 (2019)
[3] M. Kobayashi, N. Nakagawa and S.-i. Sasa, Phys. Rev. Lett.,130, 247102 (2023)

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:Belle II 実験の紹介と検出器の建設から運転まで

講師:谷口 七重 氏(高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所)
日時:2023年11月1日(水曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

現在、世界で唯一稼働中の電子陽電子衝突型加速器を用いたBファクトリーであるSuperKEKB・Belle II 実験では、圧倒的な統計データを用いた精密測定や稀な事象の探索によって標準理論では説明できない事象の発見を目指しています。セミナーでは、Belle II 実験の紹介と、私が携わっている荷電粒子の飛跡検出器について建設から運転までの道のりをお話しします。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:To be or not to be: ダークマターハロー内部構造に見られる(非)普遍性

講師:樽家 篤史 氏(京都大学基礎物理学研究所)
日時:2023年10月17日(火曜日)17:00〜
場所:Y202室(対面)

内容

ダークマターは、宇宙の成り立ち・構造を説明する上で不可欠な構成要素であるが、その起源や性質は未だよくわかっていない。しかし、宇宙論的観測からおおまかな特徴・候補が絞られており、さらなる観測を通じてその性質を突きとめるための理論研究が進んでいる。本講演では、ダークマターで構成された、ハローと呼ばれる自己重力束縛天体の普遍的とされる性質に着目する。数値シミュレーションから明らかになった、ダークマター候補ごとに見られるハロー中心部の顕著な特徴・違いについて概観し、それらの普遍性の意味するところについて、我々が行ったシミュレーションと解析計算の結果について報告する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:ナノダイヤモンド量子センサーを用いた温度計測とその応用

講師:藤原正澄 氏(岡山大学学術研究院環境生命自然科学域)
日時:2023年7月26日(水曜日)17:00〜
場所:Y202室(対面)

内容

ナノダイヤモンド量子センサーは、高感度にナノスケールの磁場や温度を計測する手段として大きな関心を集めている。この技術は、光学顕微鏡観察下でダイヤモンド窒素空孔色欠陥中心の電子スピン状態を測定するものであり、原理検証は完了している。現在の研究の中心は、これを如何に特定の用途における応用に実装し、高感度かつ有用なセンサーとして利用するかという点となる。本講演では、生体温度計測やバイオ分析チップデバイスの開発など、我々の最近の成果について報告する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:Sachdev-Ye-Kitaev型模型における多体波動関数の振舞と量子誤り訂正

講師:手塚真樹 氏(京都大学大学院理学研究科)
日時:2023年6月28日(水曜日)17:00〜
場所:Y202室(対面)

内容

Sachdev-Ye-Kitaev(SYK)模型は、多数のフェルミオンがランダムな全対全相互作用をする量子力学系であり、低温で「カオスの上限」を満たす。ブラックホールとホログラフィック対応をもつ模型の候補としても注目され、多くの研究が行われてきた。SYK模型に摂動項を加えてカオス性を失わせた模型[1]での、フォック空間における波動関数の局在[2]や、系を二分した際のエンタングルメントエントロピー[3]について、講演者らは、解析的手法と数値計算との結果を比較し、良い一致をみた。さらに、最近、この模型による時間発展での量子情報の非局所化(量子誤り訂正の形成)について、ブラックホールの情報喪失問題の量子情報理論的なトイモデルであるHayden-Preskillのプロトコルにより数値的に調べた[4]。SYK模型の項の数を減らすとともに係数の絶対値を定数に限った binary-coupling sparse SYK 模型[5]の場合と比較して議論する。

[1] A. M. García-García, B. Loureiro, A. Romero-Bermúdez, and M. Tezuka, Phys. Rev. Lett. 120, 241603 (2018) [arXiv:1707.02197].
[2] F. Monteiro, T. Micklitz, M. Tezuka, and A. Altland, Phys. Rev. Research 3, 013023 (2021).
[3] F. Monteiro, M. Tezuka, A. Altland, D. A. Huse, and T. Micklitz, Phys. Rev. Lett. 127, 030601 (2021) [arXiv:2012.07884].
[4] Y. Nakata and M. Tezuka, arXiv:2303.02010.
[5] M. Tezuka, O. Oktay, E. Rinaldi, M. Hanada, and F. Nori, Phys. Rev. B 107, L081103 (2023) [arXiv:2208.12098].

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:超伝導量子ビットを使ったダークマター探索

講師:陳詩遠 氏(東京大学 素粒子物理国際研究センター)
日時:2023年6月2日(金曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

超伝導量子ビットは比較的長いコヒーレンス時間と高い操作性を両立することから、量子コンピューターを実現する非常に有力なテクノロジーの一つとして期待されている。コヒーレンス時間の 6 桁改善に代表されるこの 20 年における発展は特にめざましく、制御や集積の高度化も相まって近年では IBM-Q や Google Sycamore など 100 ビット以上で駆動する実機も登場しており、開発の勢いは加速するばかりである。一方で超伝導量子ビットはノイズに非常に敏感である。電磁気的ノイズやビットを形成する薄膜や界面における不純物はもちろん、宇宙線の通過によっても簡単に状態が変わりエラーを発生させる。量子コンピューターの観点からは何一つありがたくない性質だが、一方でこれは量子ビットが微弱な相互作用をする粒子 -例えばダークマターなど- に対する高感度なセンサーとして使えることも意味する。重いダークマターが近年の直接探索実験によって強い制限がつけられる中、eV 以下の質量を持つ軽いダークマターの探索は重要性が増している。ダークフォトンやアクシオンが代表的な候補である。どちらも光子 (電磁波) への転換が可能であるが、巨大な電気双極子を持つ超伝導量子ビットはこの転換されて出てきた光子を検出することに長けている。また宇宙論的に最も好ましい O(μeV) から O(meV) の質量を持つダークマターから転換される光子の周波数は典型的にマイクロ波領域 (0.1―100 GHz) である。これは現在量子コンピューターで使用される超伝導量子ビットの典型的な帯域であり、現行の技術とも相性が良い。この講演では、ハロスコープと呼ばれるダークフォトンやアクシオン探索の先行実験、超伝導量子ビットの基礎的な性質を導入をした後、超伝導量子ビットをこれらの実験に組み込んだ際に期待できる飛躍について議論を行う。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


2022年度

題目:反強磁性体における創発スピン電磁場-トポロジカルスピンホール効果とスピン起電力-

講師:河野浩 氏(名古屋大学理学研究科)
日時:2022年12月15日(木曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

電子スピンの流れであるスピン流と磁性体の磁化との相互作用はスピントロニクスにおける種々の現象の基礎的な過程である。スピン流は磁化にトルクを及ぼすことにより、磁化反転や磁壁移動を引き起こす。逆に、磁化の運動は、伝導電子にスピンに依存する有効起電力(スピン起電力)を及ぼすことにより、スピン流を誘起する。また、有限の立体角を張る磁化構造は電子にスピンに依存する有効磁場を及ぼし、ホール効果を引き起こす(トポロジカルホール効果)。スピン起電力とトポロジカルホール効果は、スピン自由度が創発する有効電磁場による効果として理解される。これらの現象は、これまで主に強磁性体を用いて行われてきたが、最近は反強磁性体もスピントロニクスの新たな舞台として注目されている。

セミナーでは、強磁性金属におけるこれらの現象を概観しつつ、反強磁性金属における創発電磁場 [1, 2, 3] の理論を紹介する。まず、ネールベクトルのトポロジカルな構造に起因するトポロジカルスピンホール効果について、その本質はベクトルカイラリティであることを示す [2]。これは、強磁性体におけるトポロジカルホール効果がスカラーカイラリティに起因することと対照的である。この効果は反強磁性ギャップの小さい弱結合領域で増大することを見出したが、これは spin dephasing の抑制によるものとして理解できる。次に、ネールベクトルの時間変化が伝導電子のスピン流を引き起こす現象(スピン起電力)[3] について紹介し、反強磁性体における創発電磁ポテンシャルの存在を提案する。

[1] J. Nakane, K. Nakazawa, and H. Kohno, Phys. Rev. B 101, 174432 (2020).
[2] K. Nakazawa, K. Hoshi, J. Nakane, J. Ohe, and H. Kohno, in preparation.
[3] S. Hirata, Y. Toda, and H. Kohno, in preparation.

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:二重ベータ崩壊実験によるマヨラナニュートリノの探索

講師:清水格 氏(東北大学ニュートリノ科学研究センター)
日時:2022年12月8日(木曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

宇宙誕生直後に生成された物質と反物質は宇宙進化の過程で対消滅したが、現在の宇宙には反物質がなく物質だけが残されている。このことは、「宇宙物質優勢の謎」と呼ばれる素粒子・宇宙の大問題の1つであり、ニュートリノの性質が解決の鍵となると考えられている。ニュートリノは電荷を持たない中性粒子であるため、物質と反物質が同一の粒子、いわゆるマヨラナ粒子である可能性があるが、未だ実験的実証には至っていない。ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の観測はマヨラナニュートリノを証明する最も有力な実験的手法で、現在世界中で激しい競争が繰り広げられている。この講演では、二重ベータ崩壊実験の現状と展望を紹介する。また、現在神岡地下で行っているKamLAND-Zen実験の最新結果についても報告する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:ミュー粒子稀過程現象探索で迫る標準理論を超える新物理

講師:大谷航 氏(東京大学素粒子物理国際研究センター)
日時:2022年11月30日(水曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

荷電レプトンが世代間を移り変わる現象は、重い新粒子による量子効果で引き起こされるため、超高エネルギーでの未知の物理を探ることができる。新粒子の発見など明確な新物理の兆候が得られていない中、新物理を強力に検証する手段として注目されている。MEG実験はレプトンフレーバーを破る稀な崩壊現象 μ→eγ を世界最高感度で探索する実験で、探索感度を約10倍改善したアップグレード実験MEG IIがいよいよデータ取得を開始した。本セミナーでは、荷電レプトンフレーバーを破る現象探索の国際的な動向とともにMEG II実験の現状と今後の展望について紹介する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:金属フラーレンポリマーにおける朝永-ラッティンジャー液体状態

講師:吉岡英生 氏(奈良女子大学研究院自然科学系物理学領域)
日時:2022年11月29日(火曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

フラーレンポリマーは、フラーレン分子が一次元的に重合した物質であり、同じく炭素だけからなる一次元物質カーボンナノチューブに周期的な凸凹を付加した構造をしている。この物質では、一次元系で顕著に現れる電子相関効果と幾何学的な形状効果の協奏による新奇物性が期待される。本講演では、第一原理計算よって得られた安定構造(2種類)のバンド分散に多チャンネルボソン化法を適用してフラーレンポリマーの性質を調べた結果を報告する。

まず、状態密度について考察を行なった。状態密度はエネルギーおよび温度の関数として冪的な振る舞いを示し、その冪の値はカーボンナノチューブに比べ大きくなることを見出した。この結果は、近年行われたカーボンナノチューブおよびフラーレンポリマーの光電子分光の実験結果と一致している。しかしながら、状態密度において2種類の安定構造で定性的な差異は見られず、光電子分光ではどちらの安定構造が実際に実現しているかを判断することは難しいことが結論付けられた。一方、2種類の安定構造についてスペクトル関数の比較を行なったところ、実際に実現している安定構造を同定するのに十分であると期待される定性的な違いが見出された。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:場の理論における一般化された対称性について

講師:山口哲 氏(大阪大学大学院理学研究科)
日時:2022年10月26日(水曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

対称性は物理学において非常に基本的で重要な概念である。近年、場の理論の対称性の概念に発展があり、従来は対称性と呼んでいなかったものが、対称性と似た性質をもち、対称性と同様に有用であることが分かってきた。これら「一般化された対称性」の発見では、対称性を「トポロジカル欠陥」と呼ばれるもので表すことが重要な役割を果たす。今回の談話会では、対称性とトポロジカル欠陥についてお話したあと、一般化された対称性の一種である非可逆対称性についてお話する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:Megagauss magnetic fields in Europe: current status and future projects

講師:Oliver Portugall氏(EMFL-LNCMI, CNRS, France、ISSP, University of Tokyo, Japan)
日時:2022年10月24日(月曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

Megagauss magnetic fields in Europe: current status and future projects

要旨:In this talk I will present the status of Megagauss activities in Toulouse, France. After a short introduction into the basic principle of magnetic field generation with single-turn coils, I will focus on current scientific projects including the study of high-Tc superconductors and organic semiconductors. New technical developments to investigate these material groups by electric transport measurements and THz-spectroscopy will be considered.

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:Quantum Fluctuation Theorems under Measurement and Feedback

講師:沙川貴大氏(東京大学大学院工学系研究科)
日時:2022年10月20日(木曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

The fluctuation theorem characterizes the universal properties of the entropy production far from equilibrium. In the presence of measurement and feedback by “Maxwell's demon”, the fluctuation theorem is generalized by incorporating information contents such as mutual information, elucidating the link between thermodynamics and information [1]. While the fluctuation theorem in classical systems has been thoroughly generalized under various feedback control setups, the role of information in thermodynamics in the quantum regime has not been fully revealed, despite its significance in quantum feedback control. In this talk, starting from a brief review of thermodynamics of information, I will focus on the generalized fluctuation theorem under continuous quantum measurement and feedback [2]. The relevant information content is the quantum-classical-transfer (QC-transfer) entropy, which can be naturally interpreted as the quantum counterpart of transfer entropy that is commonly used in classical time series analysis. I will also demonstrate our theoretical result by numerical simulation based on an experiment-numerics hybrid verification method. These results reveal a fundamental connection between quantum thermodynamics and quantum information.

[1] J. M. R. Parrondo, J. M. Horowitz, and T. Sagawa, Nature Phys.11, 131–139 (2015).
[2] T. Yada, N. Yoshioka, T. Sagawa, Phys. Rev. Lett. 128, 170601 (2022).

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:Future High Energy ep Colliders and gamma-gamma Interactions

講師:Krzysztof Piotrzkowski氏 (AGH Krakow, Poland)
日時:2022年9月21日(水曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

Exploiting energy-recovery linac technology, an intense electron beam can be brought into collisions with a hadron beam from the High-Luminosity LHC, concurrently with the hadron-hadron collisions. The expected very high ep luminosity at 1.2 TeV of the center-mass-energy opens a vast and unique research field, on top of exciting studies of the eA collisions. In this lecture I will review the LHeC developments as well as discuss the concept of new general purpose detector and its physics scope. Then I will discuss in more detail the high energy photon-photon interactions at the LHeC (and FCC-eh), opening new frontiers in the electroweak physics as well as in searches for physics beyond the Standard Model. Despite very high ep luminosities, the experimental conditions will be very favorable for such studies - a negligible event pileup will allow for unique measurements of a number of processes involving the exclusive production via photon-photon fusion.

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:希土類キラル磁性体RNi3X9 (X=Al, Ga)におけるらせん磁気秩序

講師:松村 武氏(広島大学 大学院先進理工系科学研究科)
日時:2022年8月9日(火曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

結晶構造と磁気構造のあいだには対称性に縛られた密接な関係があり、その最も低対称な場合が、反転中心も鏡映面ももたないキラル磁性体である。結晶の対称性はスピン軌道相互作用を通して磁気構造に反映され、らせん磁気秩序であれば巻き方が右型結晶と左型結晶で逆になる。その基になるDM相互作用は、磁場中でのキラル磁気ソリトン格子のように、トポロジカルに保護された特有の構造をもたらす。d電子系ではCrNb3S6、f電子系では Yb(Ni,Cu)3Al9系が典型である。立方晶EuPtSiにおけるスキルミオン格子も同様であるが、f電子系金属間化合物ではRKKY相互作用による対称相互作用が主であり、らせん周期が極めて短距離になる点がd電子系と異なる特徴である。一方、DyNi3Ga9という物質では、Dy の大きな軌道角運動量を反映して強的な電気四極子秩序が発生する。強い異方性が現れるはずだが、転移温度直下では等方的ならせん磁気秩序が観測されており、様々なエネルギーが競合した状況にあると考えられる。いずれも、磁気相互作用の詳細は未解明で研究途上にある。低温磁場中における共鳴X線回折実験を通して得られた最近の研究について紹介する。

[1] T. Matsumura, Y. Kita, K. Kubo, Y. Yoshikawa, S. Michimura, T. Inami, Y. Kousaka, K. Inoue, and S. Ohara, JPSJ 86, 124702 (2017).
[2] M. Tsukagoshi, T. Matsumura, S. Michimura, T. Inami, and S. Ohara, Phys. Rev. B 105, 014428 (2022).

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。

題目:Particle Physics and Cosmology in the Swampland

講師:Pablo Soler Gomis氏 (Institute of Basic Science)
日時:2022年8月4日(木曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

String Theory is, without a doubt, the most promising candidate to unify in a consistent setup all fundamental interactions of Nature. It accommodates both General Relativity and Quantum Field Theory in a single framework, and hence has the potential to describe all physical phenomena experimentally observed, from Particle Physics to Cosmology. Yet, the connection between the fundamental aspects of String Theory to its phenomenological consequences is highly involved and full of surprises. It has been recently realized that only a small subset of low energy models of Cosmology and Particle Physics are compatible with Quantum Gravity (i.e. with String Theory). In this talk, I will describe some of the conjectural properties that distinguish such consistent models (the “Landscape”) from theories that cannot accommodate gravity (the “Swampland”) and discuss a few of their phenomenological implications, e.g. to Dark Matter and Early Universe Cosmology.

なお、この談話会は特別講義「Quantum aspects of black holes: an introduction」の講義も兼ねています。

題目:遷移金属錯体[MnIII(taa)]における二次の電気磁気効果

講師:木村尚次郎 氏(東北大学・金属材料研究所)
日時:2022年5月26日(木曜日)17:00〜
場所:Z103室(対面)

内容

電場によって磁化 、磁場によって電気分極をそれぞれ誘起する電気磁気効果が磁気秩序したいくつかの磁性体で観測されることが知られているが、磁気秩序を持たない常磁性体であっても、その結晶が空間反転対称性を持たない圧電結晶であれば二次の電気磁気効果によって磁場の二乗に比例した電気分極を誘起することができる[1]。談話会では、空間反転対称性を持たない遷移金属錯体[MnIII(taa)]で観測された二次の電気磁気効果について紹介する。この物質では、MnIIIのd軌道の縮退により錯体分子に生じるヤーンテラー歪みが磁場の印加によって整列するため、歪みにより生じた電気双極子が配向して比較的大きな磁場誘起の電気分極が観測される[2]。

[1] S. L. Hou and N. Bloembergen: Phys. Rev. 138 (1965) A1218.
[2] Y. Otsuki, S. Kimura, S. Awaji and M. Nakano: Phys. Rev. Lett. 128 (2022) 117601.

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねます。


2021年度

題目:The mystery of CeRhIn5 in high magnetic fields

講師:Ilya Sheikin 氏(LNCMI-Grenoble, CNRS)
日時:2022年2月1日(木)17:00〜
場所:オンライン(zoom)

内容

要旨はこちら をご覧ください。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねます。

題目:インフレーションで探る重力スケール

講師:尾田 欣也氏(東京女子大学教授)
日時:2021年12月23日(木)17:00〜
場所:理学部 Z103教室

内容

量子重力は過去1世紀以上にわたって人類を悩ましてきた難問です。一方で素粒子論と宇宙論は目覚ましい進展を遂げ、それぞれ、標準模型と標準宇宙論が確立しました。しかし後者の基盤となる初期宇宙のインフレーションがどうやって起こったのかは未だ議論の的です。今後10〜20年ぐらいで観測の更なる進展が期待される、インフレーション中のスカラー場(インフラトン)や重量子の量子揺らぎの観測から、どのくらい量子重力に迫れるのか、という動機で色々研究してきたことを紹介します。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねます。

題目:磁性表現論と第一原理計算による磁性体の物性解析

講師:鈴木 通人氏(東北大学 金属材料研究所 計算材材料学センター)
日時:2021年12月9日(木)17:00〜
場所:理学部 Z103教室

内容

ポスター

題目:Optical Response of Dirac Electrons in Topological Insulator Films (トポロジカル絶縁体薄膜におけるディラック電子の光学応答)

講師:溝口 幸司氏(大阪府立大学 理学系研究科 教授)
日時:2021年12月3日(金)17:00
場所:オンライン開催

内容

We report on the optical response of Dirac electrons in topological insulator (TI) films fabricated on sapphire substrates under optical pulse excitations with various optical polarizations. The photocurrents generated in Bi2Te3 topological insulator films have been investigated by THz-wave measurements and time-resolved magneto-optical Kerr effect (MOKE) measurements. The THz waves radiated from the TI films indicate that the photocurrents in the surface layer of the TI film have been generated by optical circularly polarized pulses and the directions of photocurrents are inverted between the excitations of right- and left-circularly polarized pulses. Moreover, the sign inversion in the MOKE signals is observed under the excitations of right- and left-circularly polarized pulses. These inversions of the obtained signals between the right- and left-circular polarizations demonstrate the generation of the spin-polarized photocurrents by Dirac electrons, which results from the spin-momentum locking in the energy dispersion relationship of Dirac electrons.

Reference:
H. Takeno, S. Saito, and K. Mizoguchi, “Optical control of spin-polarized photocurrent in topological insulator thin films”, Scientific Report 8, 15392 (2018).

題目:ステライルニュートリノの探索の現状と展望

講師:丸山 和純氏(高エネ研 素粒子原子核研究所 准教授)
日時:2021年12月2日(木)17:00〜18:00
場所:理学部 Z103教室(対面)

内容

このセミナーでは、ステライルニュートリノと呼ばれる弱い相互作用を行わないニュートリノの探索の現状と展望を紹介する。軽いステライルニュートリノは1990年代に行われたLSND実験の結果を説明するために導入され、それ以降、MiniBooNE実験や原子炉実験、Gaを用いた実験などで存在が示唆されているが、νμの消失実験等では存在に否定的な結果が出され、混沌とした状態が続いている。最初に世界の探索状況を紹介した後、LSND実験の直接検証を目指し、J-PARCで2021年から本格的にデータ取得を開始したJSNS2実験の状況・展望についても紹介する。

ポスター

題目:圧力によって磁性体の性質を古典から量子まで能動的に制御する

講師:山本 大輔氏(日本大学 文理学部 准教授)
日時:2021年12月1日(水)17:00〜18:00
場所:理学部 Z103教室(対面)

内容

このセミナーでは、神戸大学分子フォトサイエンス研究センターで行われた結合スピン鎖反強磁性体CsCuCl3の圧力下磁気測定実験に対する理論解析[1]を中心に、固体物質における量子力学的な性質の能動的コントロールに関して議論する。‟量子数”の極めて大きい極限において量子物理学の結果は古典物理学の結果に帰着すべし、という「対応原理」は、量子論と古典論との整合性のために量子力学の黎明以来広く尊重されてきた。本研究では、ピストンシリンダーセルを用いた圧力印加によって磁性体CsCuCl3の磁気量子数を実効的に変化させ、その性質を古典的なものから量子的なものに変化させるという試みに関して紹介する。

[1] Continuous control of classical-quantum crossover by external high pressure in the coupled chain compound CsCuCl3, Daisuke Yamamoto, Takahiro Sakurai, Ryosuke Okuto, Susumu Okubo, Hitoshi Ohta, Hidekazu Tanaka, and Yoshiya Uwatoko, Nature Communications 12, 4263 (2021).

ポスター

題目:Belle II 実験における消えた反物質と暗黒物質の謎の探索およびレプトン普遍性の破れ

講師:石川 明正氏(素粒子原子核研究所 准教授)
日時:2021年11月17日(水)17:00
場所:理学部 Z103教室

内容

Belle II 実験の前身である Belle 実験は、素粒子標準理論の根幹をなす小林益川理論を実証し、成功裏に実験を終えた。しかしながら小林益川理論では粒子反粒子非対称性が小さく、消えた反物質を説明出来ないことも確定し、素粒子標準理論を超える物理=新物理が必要となる。また、宇宙に存在する暗黒物質の候補が素粒子標準理論には無く、これも新物理を必要とする。LHCで暗黒物質 候補が未だ見つかっていないことから、近年軽い暗黒物質に注目が集まっている。Belle II 実験では小林益川理論を超える新たな粒子反粒子非対称性の探索と、軽い暗黒物質に関連する粒子の探索から、宇宙の二つの大問題である消えた反物質と暗黒物質の謎の解明に挑む。また、近年標準理論を超える物理の徴候として話題になっているB中間子崩壊でのレプトン普遍性の破れについても紹介する。

題目:DyNiAlにおける異なる結晶軸に対する磁場印加による強的4極子秩序変数のスイッチング

講師:鈴木 孝至氏(広島大学大学院先進理工系科学研究科)
日時:2021年8月10日(火)17:00〜18:00
場所:オンライン開催

内容

DyNiAlは六方晶結晶構造をもち、TC =30 KとT1 = 15 Kでそれぞれ強磁性相および反強磁性相へ逐次磁気相転移することが知られていた。本物質の4f電子は局在性が顕著であることから、結晶場状態や磁気相図を明らかにするため磁場中弾性率実験を丹念に行った。この結果から、意図しない面白い性質が見つかったので報告する。まず、本物質は六方晶構造をもち4f電子の結晶場状態はクラマース2重項だけで構成され電気4極子の縮重をもたないにもかかわらず、強的4極子秩序することを見出した。さらに、磁場中では4極子が強的に秩序した磁場誘起相が存在する。その磁場誘起強的4極子秩序変数は磁場方向を[100]方向と[001]方向に印加した場合、それぞれOxyとOyzにスイッチする1)。強的4極子秩序状態はマクロな自発歪みを伴うことから、新しいマルチフェロイックスとみることも出来るかもしれない。

[1] I. Ishii et al., Phys. Rev. B 103, 195151 (2021).

題目:自己回避ウォークで探る高分子ゲルの負のエネルギー弾性

講師:白井 伸宙 氏(三重大学・総合情報処理センター)
日時:2021年8月4日(水)17:00〜18:00
場所:オンライン開催

内容

近年、高分子ゲルの弾性率について、新しい実験的な発見があった。負のエネルギー弾性である [1]。これはこれまでゴム弾性の理論をそのまま借用して理解されてきた高分子ゲル弾性の熱力学に修正を迫る。本研究では、高分子ゲルにおける負のエネルギー弾性の微視的な起源を明らかにするため、自己回避ウォークを土台としたモデルを構築して統計力学的な解析を行なった。結果、負のエネルギー弾性の温度変化の振る舞いとその起源を定性的に説明することに成功した。本研究は、作道直幸氏(東大)との共同研究に基づく。

[1] Y. Yoshikawa, N. Sakumichi, U. I. Chung, and T. Sakai, Phys. Rev. X 11 (2021) 011045.

題目:The Decade of Electromagnetic Counterparts to the Gravitational Wave Event GW170817

講師:井岡 邦仁 氏(京都大学・基礎物理学研究所・教授)
日時:2021年6月3日(木)17:00〜18:00
場所:オンライン開催

内容

アインシュタインが一般相対性理論を提唱して100年目の2015年9月14日にブラックホールの合体からの重力波 GW150914 が直接検出された。2017年8月17日には2つの中性子星の合体からの重力波 GW170817 も発見され、同時にガンマ線バーストや巨新星(キロノバ)など、あらゆる波長の電磁波も観測された。まさに本格的なマルチメッセンジャー(全粒子天文学)時代の到来を告げる歴史的イベントとなった。本講演では、特に、GW170817 で発見された電磁波対応天体を解説し、まだ観測され続けている対応天体がこの10年でどうなるのか?を展望する。


2020年度

題目:重力理論の拡張に関する最近の話題:オストログラドスキーの定理

講師:髙橋 一史 氏(神戸大学理学研究科・助手)
日時:2021年1月14日(木)17:00〜18:00
場所:理学部Z103教室

内容

宇宙の加速膨張を引き起こすダークエネルギーは一般相対論に基づく現代宇宙論の最大の謎であり、これを説明する試みとして一般相対論を拡張した重力理論の枠組みが盛んに研究されている。代表的なものは一般相対論にスカラー場を1つ加えた理論(スカラーテンソル理論)である。スカラー場という新たな自由度をラグランジアンに導入するにあたり、どのような相互作用が許されるかは非自明な問題だが、この問に対する一つの答を与えるのがオストログラドスキーの定理である。定理によれば運動方程式が高階微分を含むような理論には不安定な自由度(ゴースト)が存在するため、整合的な理論を構築するためにはこのゴーストを回避する必要がある。本講演では、解析力学の模型を用いてオストログラドスキーの定理のエッセンスを解説した上で、ゴーストのないスカラーテンソル理論に関する最近の進展を紹介する。

題目:強相関電子系に対する理論計算法の最近の発展:動的平均場法とスパースモデリング

講師:大槻 純也 氏(岡山大学異分野基礎科学研究所)
日時:2020年12月17日(木)17:00~
場所:理学部Z103教室

内容

遷移金属元素や希土類元素を含む強相関化合物では、強いクーロン斥力に起因して、磁性や超伝導などの有用な物性が発現する。強相関化合物では「量子多体効果」が顕著なため、第一原理に基づく電子構造計算の応用はこれまで限定的であった。近年、低エネルギー有効模型を扱う量子多体論を電子構造計算に応用する研究が進んでおり、第一原理計算の応用範囲が広がってきている。本講演では、その中でも特に成功を収めているDFT+DMFT法を概観する。最近の進展として、スピン・軌道感受率を用いた相転移の検出法[1]を紹介し、その応用として、Feにおける強磁性やCu化合物における軌道秩序について議論する。また、我々が公開しているDFT+DMFT計算ソフトウェアDCoreを紹介する[2]。後半では、筆者らが最近取り組んでいるスパースモデリング[3]と呼ばれるデータ科学法の応用と今後の展開についても議論したい。

参考文献

[1] "Strong-coupling formula for momentum-dependent susceptibilities in dynamical mean-field theory", J. Otsuki, K. Yoshimi, H. Shinaoka, Y. Nomura, Phys. Rev. B 99, 165134 (2019).
[2] "DCore: Integrated DMFT software for correlated electrons", H. Shinaoka, J. Otsuki, M. Kawamura, N. Takemori, K. Yoshimi, arXiv:2007.00901.
[3] "Sparse Modeling in Quantum Many-Body Problems", J. Otsuki, M. Ohzeki, H. Shinaoka, K. Yoshimi, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 012001 (2020).

題目:三角格子反強磁性体CsFeCl3における磁気励起

講師:松本 正茂 氏(静岡大学理学部・教授)
日時:2020年12月14日(月)17:00〜18:00
場所:オンライン開催

内容

フラストレーションのある磁性体では、様々な秩序状態が出現する。三角格子反強磁性体CsFeCl3はそのような物質の1つであり、日本を中心に古くから研究され、磁場や圧力による量子相転移によって、ノンコリニアな120°構造の磁気秩序が安定化することが知られている。最近、圧力下の量子相転移に伴う磁気励起の変化が中性子散乱で観測され、磁気モーメントの縦揺らぎと横揺らぎが結合した、珍しい励起状態が報告されている。これを理論的に解析し、ノンコリニアな構造に付随した磁気励起の性質について、詳しく紹介する。

題目:テンソルネットワーク法×HPCによる古典統計模型解析の最前線

講師:上田 宏氏(理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS))
日時:2020年11月25日(水)17:00〜
場所:オンライン開催

内容

一様離散格子上の古典統計模型の解析を数値的に高精度で行う手法の一つとしてテンソルネットワーク(TN)法がある。極めて最近、TN法の一種である高次特異値分解を利用したテンソル繰り込み群(HOTRG)法やテンソルネットワーク繰り込み(TNR)法を用いて、q状態クロック模型(5≦q≦9)に現れるBerezinskii-Kosterlitz-Thouless転移点とその転移点に挟まれた臨界相を特徴づける共形変数(コンパクト化半径など)も高精度に評価できることが示され[1,2]、TN法への注目がさらに集まっている。講演者らも、TN法の一種である角転送行列繰り込み群(CTMRG)法に大規模並列化を施し、多内部自由度を持つ古典統計模型に現れる非自明な相転移とその臨界性の同定を行ってきた[3-5]。本座談会ではTN法の計算原理を紹介しつつ、上述のようなTN法の最近の応用例について紹介していきたい。

[1] Z.-Q. Li et al., Phys. Rev. E 101, 060105(R) (2020).
[2] G. Li, K. H. Pai, and Z.-C. Gu, arXiv:2009.10695
[3] H. Ueda et al., Phys. Rev. E 96, 062112 (2017).
[4] H. Ueda et al., Phys. Rev. E 101, 062111 (2020).
[5] H. Ueda et al., Phys. Rev. E 102, 032130 (2020).

題目:K中間子の稀な崩壊を用いる新物理探索の現状と展望

講師:南條 創氏(大阪大学 理学研究科)
日時:2020年11月18日(水)17:00〜
場所:理学部Z103教室

内容

K中間子の稀な崩壊、KL->π0νν崩壊は素粒子標準理論では強く抑制され、崩壊分岐比の予測が正確であるので、分岐比のズレを通して新物理に敏感である。J-PARCではKOTO実験が2013年からこの崩壊の探索を開始し、背景事象の理解と削減を進め、探索感度を一桁以上向上し、世界最高感度を達成している。K中間子の稀崩壊を用いる新物理探索についてKOTO実験と世界の情勢をまとめ、将来の展望についても紹介する

題目:トポロジカル相の新しい潮流:非エルミート・トポロジカル相

講師:佐藤 昌利氏(京大基礎物理研究所・教授)
日時:2020年11月13日(金)17:00〜18:00
場所:理学部Z103教室

内容

トポロジカル絶縁体の発見以来、従来の自発的対称性破れの概念では捉えることのできない相構造が物質世界に広く遍在していることが認識され、多くの研究がなされてきた。トポロジカル相の概念を超伝導体に拡張した「トポロジカル超伝導体」、対称性とトポロジー両方を考慮することで生じる「対称性に守られたトポロジカル相(SPT)」など多くの新概念が導入されると同時に、マヨラナ励起などの新しい励起状態も発見され、トポロジカル相に関する包括的な分類がなされるとともに、研究分野も物性物理に留まらず、素粒子論や数学などにも幅広い分野に影響を与えるに至っている。 この講演では、このトポロジカル相の新しい潮流として、現在物性物理で活発に研究されている非エルミート・トポロジカル相の話題を取り上げる。通常ハミルトニアンはエルミートであると仮定されるが、この仮定は必ずしも自明ではなく、相互作用、不純物、あるいは環境の影響などでハミルトニアンはしばしば非エルミートとなる。このような非エルミート性は単に不安定性を生じさせるだけでなく、新しいトポロジカルな相構造や現象を可能とする。最近の我々の研究を中心に非エルミート・トポロジカル相について基礎的な内容を中心に解説を行う。

題目:自発的対称性の破れに関する最近の話題: 開放系から高次対称性まで

講師:日高 義将氏(高エネルギー加速器研究機構・教授)
日時:2020年11月6日(金)17:00〜18:00
場所:理学部Z103教室

内容

連続対称性が自発的に破れると南部ゴールドストンモードと呼ばれるギャップを持たない励起が現れる。固体中の音波や強磁性体中のスピン波がそれに当たる。南部ゴールドストンの定理は、場の量子論において定式化され、物性系の様な非相対論系や、さらには、エネルギーや運動量が保存しない開放系にも拡張されている。また、最近では、渦糸やドメインウォールのような広がりを持った物体に対する対称性とその自発的破れを考えることで光も南部ゴールドストンモードとして理解できる事が明らかになった。本講演では、これらの自発的対称性の破れと南部ゴールドストンモードに関する近年の発展を我々の最近の研究[1,2,3]を交えながら紹介する。

[1] "Counting Nambu-Goldstone modes of higher-form global symmetries," Yoshimasa Hidaka, Yuji Hirono, Ryo Yokokura, 2007.15901 [hep-th],
[2] "Rainbow Nambu-Goldstone modes under a nonequilibrium steady flow," Yuki Minami, Hiroyoshi Nakano, Yoshimasa Hidaka, 2009.10357 [cond-mat.stat-mech].
[3] "Spontaneous symmetry breaking and Nambu–Goldstone modes in open classical and quantum systems," Yoshimasa Hidaka, Yuki Minam, PTEP 2020 (2020) 3, 033A01, 1907.08241 [hep-th].


2019年度

題目:階層的三体系からの重力波

講師:前田 恵一氏(早稲田大学・理工学術院・教授)
日時:2020年1月10日(金)15:00〜16:00
場所:理学部Z103教室

内容

内軌道と外軌道の2つの軌道から構成される階層的三体系では、2つの軌道間の軌道傾斜角と内軌道の離心率の間に起こるKozai-Lodov振動が特徴的である。離心率変化は重力波放出に大きな影響を与えるため、階層的三体系からの重力波は興味深い振る舞いを示す。ポスト・ニュートン近似のEIH方程式を数値的に解き、Kozai-Lodov振動が起こる場合の重力波放出の影響について解析し、連星パルサーのまわりに3番目の天体が存在する場合、近星点移動曲線に屈折が現れることを明らかにした。また階層的三体系から放出される重力波の性質を調べ、放出重力波はDECIGO(またはBBO)では観測可能であることを示した。

ポスター

題目:J-PARCにおけるハドロン物理

講師:成木 恵氏(京都大学・准教授)
日時:12月18日(水)17:00〜
場所:理学部 Z103教室

内容

2009年より稼働したJ-PARCにおいて、中間子や陽子などのハドロンビームを用いたハドロン物理実験が行われている。これまでに行われた実験を概観するとともに、特に、来年2月に完成する新しいビームラインで展開される実験研究について紹介する。
J-PARCでは大強度陽子ビームによって得られる二次粒子を実験に用いているが、これに加え、新たに一次陽子が利用可能となる。pA反応では生成した中間子が原子核密度下におかれるため、QCD凝縮が融けてハドロンの質量が変化することが期待される。一次陽子ビームを原子核標的に照射し、高レート耐性を持つ高分解能スペクトロメータによって中間子のレプトン対崩壊をとらえる実験がまもなくスタートしようとしている。この実験(J-PARC E16実験)の現状と見通しを紹介する。
また、ストレンジネスあるいはチャームを含むバリオン分光研究や、中間エネルギー領域における重イオンビームを用いたハドロン実験のプロジェクトも立ち上がっている。これらの将来計画についても紹介したい。

ポスター

題目:多成分系の渦やソリトン:多成分超伝導・超流動、高密度QCD、2ヒッグス・ダブレット模型を通して

講師:新田 宗土 氏(慶應義塾大学・教授)
日時:11月13日(水)16:00-
場所:理学部 Z103教室

内容

渦は自然界の様々なところに存在している。台風も渦の一種であるが、超流動体、超伝導体、冷却原子気体では渦が「量子化」された量子渦となっている。回転する超流動体や磁場下の超伝導体では、渦が本質的な役割を果たす力学的自由度となる。そのような量子渦は場の量子論においてトポロジカル・ソリトンの一種として自然に理解でき、また宇宙における宇宙ひもの候補となる。
さて、従来型のs波超伝導や超流動、1種類のボース原子気体では、渦の構造が単純であるのに比べて、多成分の超伝導や超流動などでは、渦が多様な構造を持つことが知られている。そのような例として、中性子星内部にある核物質において、特に密度の高いコアで実現されると思われるトリプレットP波超流動における多種多様な渦や、さらに高密度で生じるQCDのカラー超伝導状態における非アーベリアン・カラー磁束がある。また素粒子物理学においては、標準模型を超える2ヒッグス・ダブレット模型でも同様の渦が存在する。これら幅広い系での渦やソリトンの構造について紹介する。

ポスター

題目:スピン1/2三角格子及び籠目格子反強磁性体の磁気励起

講師:田中 秀数 氏(東京工業大学理学院物理学系・教授)
日時:10月29日(火)17:00〜
場所:理学部 Z103教室

内容

スピン1/2三角格子及び籠目格子Heisenberg反強磁性体はフラストレートした量子磁性体の典型的なモデルで、強いフラストレーションと量子効果によって顕著な量子多体効果を示す。S=1/2三角格子Heisenberg反強磁性体(Heisenberg TLAF)では、量子多体効果によって、磁場中で3つの部分格子がつくるup-up-down構造が有限の磁場範囲で安定化され、磁化曲線に飽和磁場の1/3にプラトーが現れることがよく知られている。S=1/2 Heisenberg TLAFの良いモデル物質としてBa3CoSb2O9がある。この物質では1/3磁化プラトーが実験で確認されている[1]。S=1/2 TLHAFの磁気励起については、理論的研究が活発に行われている。しかし、単一マグノン励起について一定のコンセンサスはあるが、連続励起については殆んど分かっていない。我々はBa3CoSb2O9の磁気励起をJ-PARC, MLFに設置された分光器AMATERASを用いて広い運動量・エネルギー空間で調べた[2]。得られた励起スペクトルの特徴は、(1) 3段のエネルギー構造を持つ。(2) 1段目は単一マグノン励起からなり、分散関係は高エネルギーで大きく低エネルギー側に再規格化される。また、M点にロトン的極小が現れる。(3) 2段目と3段目は分散のある強い連続励起からなり、連続励起は交換相互作用の6倍以上の高エネルギーまで続く。これらの実験結果は秩序状態からでもスピノンなどの分数スピン励起が起こり得ることを強く示唆している。
次に、S=1/2籠目格子Heisenberg反強磁性体(Heisenberg KLAF)であるが、基底状態に関しては理論研究が精力的に行われていて、量子力学的な無秩序状態になることが知られている。しかし、その具体的な状態については今なお議論が続いている。一方、磁気励起については、基底状態が分からないこともあり、理論的コンセンサスはない。実験ではモデル物質の探索が精力的に行われ、ZnCu3(OH)6Cl2などの物質が知られている[3]。Cs2Cu3SnF12は我々が開拓したS=1/2 KLAFである[4]。Cs2Cu3SnF12の基底状態は大きなDzyaloshinskii- Moriya相互作用によって正のchiralityをもつq=0構造の秩序状態になる[5]。我々はCs2Cu3SnF12の磁気励起をJ-PARC, MLFに設置された分光器4SEASONSを用いて広い運動量・エネルギー空間で調べた[6]。以下に主な結果をまとめる。(1) 散乱強度は籠目格子の幾何学を反映して、2次元逆格子空間でBZの2倍の周期構造を持つ。(2) 文献[6]で報告されたように、単一マグノン励起のエネルギーが波数ベクトルに依存せず、殆ど一様に低エネルギー側に再規格化される。(3) 強い連続励起が存在し、交換相互作用の2.5倍以上の高エネルギーまで続く。この実験結果から、S=1/2 KLAFでも分数スピン励起の存在が示唆される。

[1] Y. Shirata et al., Phys. Rev. Lett. 108, 057205, T. Susuki et al., ibid. 110, 267201 (2013).
[2] S. Ito et al., Nat. Commun. 8, 235 (2017).
[3] M. P. Shores et al., J. Am. Chem. Soc. 127, 13462 (2005).
[4] T. Ono et al., Phys. Rev. B 79, 174407 (2009).
[5] T. Ono et al., J. Phys. Soc. Jpn. 83, 043701 (2014).
[6] R. Takagishi et al., unpublished data.

ポスター

題目:量子スプレマシーと量子計算の検証

講師:森前 智行 氏(京大基礎物理学研究所・講師)
日時:7月4日(木)17:00〜
場所:理学部 Z103教室

内容

量子ビットを好きなだけ用意でき、任意の量子アルゴリズムを走らせることができる完全な量子計算機を作るのは研究者たちの一つの究極のゴールであるが、それはまだまだ遠い未来のことである。そこで、現在、「弱い」量子マシンをとにかくまずはつくり、それが古典計算機を超越していることを示そうとする研究「量子スプレマシー」が盛んに行われている。量子計算が意味があるのはそもそも古典計算機でシミレートできないからであるが、それがあだとなってしまい、量子計算機の動作チェックに量子計算機が必要となるという皮肉なジレンマに陥ってしまう。量子計算機無しで量子計算の正しさをチェックできるか、という問題は、「量子計算の検証」とよばれ、量子スプレマシーや量子クラウドの検証という実用的な重要性から、近年活発な研究が行われている。本講演では、その二つのテーマについて最新の研究成果を報告する。

ポスター

題目:電気四重極子の秩序とその特異な磁場効果

講師:服部 一匡 氏(首都大学東京・准教授)
日時:6月26日(水)17:00〜
場所:理学部 Z103教室

内容

固体中の電子による自発的対称性の破れは、強磁性・反強磁性磁気秩序や電荷秩序に馴染みが深い人が多いと思われるが、近年、異方的な電荷・磁荷分布をもつ「多極子」の自由度による秩序に注目が集まっている。それらは一風変わったーーつまり通常の磁性体などと違ったーー磁場効果や外場応答を我々に見せてくれる。本講演では近年精力的に研究がなされているPr化合物と関係したダイヤモンド構造上の電気四極子の秩序を例に、反強四極子秩序の統計力学的模型の古典モンテカルロシミュレーションの結果、ダイヤモンド構造上の反強四極子秩序における反転対称性の破れに起因する電気(電流)磁気効果の解析、および強四極子秩序における特異な磁場誘起相転移について、対称性によりどのように説明されるかを強調しつつ紹介したい。

ポスター

題目:ウラン化合物における超伝導と磁場誘起現象

講師:青木 大 氏(東北大学金属材料研究所・教授)
日時:5月22日(水)17:00〜
場所:理学部 Z103教室(変更になりました。)

内容

強磁性と超伝導はお互いに相入れない物理現象だと考えられて来た。強磁性の強い内部磁場が超伝導クーパー対を容易に破壊するからである。ところが、いくつかのウラン化合物において強磁性と超伝導が微視的に共存する系が見つかって注目を集めている。これらの系であるUGe2、URhGe、UCoGeでは、スピン三重項による非従来型の超伝導が実現していることがわかっている。このため、磁場によるパウリ対破壊効果がなく、極めて高い超伝導上部臨界磁場Hc2を持つ。さらに、磁場を磁化困難軸方向に加えた時に、強磁性揺らぎが増強され、磁場誘起超伝導や磁場強化型超伝導などの劇的な超伝導相の変化が起きることがわかって来た。また、つい最近発見された超伝導体UTe2は、キャリア数の小さな強磁性秩序寸前の常磁性体であり、Hc2が発散的な増大を示すことがわかった。本講演では、これら強磁性体あるいは強磁性秩序寸前のウラン化合物超伝導の魅力を伝えたい。

ポスター

題目:実験室実験の延長線上にある宇宙からの観測

講師:上野 宗孝 氏(JAXA・技術主幹 / 理学研究科・客員教授)
日時:4月26日(金)17:00〜
場所:理学部 Z103教室

内容

宇宙開発の速度は第2の激動期に突入している。宇宙機開発や打上げロケットの多様化も進み、民間企業がしのぎを削る舞台へと変貌しつつある。宇宙科学の発展は、文字通り我々の活動領域の拡大と宇宙における技術進歩の恩恵を大きく受けてきている。近年のトレンドである超小型衛星の活用は、宇宙への敷居を劇的に下げつつあり、宇宙での実験が宇宙機関だけのものでは無く、科学研究費規模の世界を作りつつある。

ポスター


2018年度

題目:雷放電で拓く高エネルギー大気物理学

講師:榎戸 輝揚 氏(京都大学 白眉センター/理学研究科 宇宙物理学教室)
日時:1月18日(金)15:30〜
場所:自然科学総合研究棟3号館125室

内容

雷は人類が太古から知っている身近な自然現象であるにも関わず、極端な環境のため、いまだに未知物理現象が隠されている。近年雷や雷雲の中で電子が加速されて生じるガンマ線が観測できるようになり「高エネルギー大気物理学」という新分野が生まれようとしている。私達は、冬季に日本海沿岸に発生する強力な雷放電に目をつけ、宇宙X線の観測技術に加え、学術系クラウドファンディングやオープンサイエンスも活用して、地上での放射線マッピング観測を進めている。その結果、2017 年に、雷で光核反応が起きることを世界に先駆けて解明した (Enoto et al., Nature 2017)。この新しい物理分野と今後の展開への見込みを紹介したい。

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題目:オプトメカニクスを用いたNMR の光検出

講師:武田 和行 氏(京都大学大学院理学研究科・准教授)
日時:12月6日(木)17:00〜18:00
場所:神戸大学理学部 Z103教室

内容

光学(オプティクス)と力学(メカニクス)が融合した分野であるオプトメカニクスでは、光−機械ハイブリッド実験系の量子的振る舞いの研究が行われています。さらに、オプトメカニクス系に電気(エレクトロニクス)も融合して、電気−機械−光ハイブリッド系を用いて電気信号を光に変換する技術も開発されました。電気信号の検出に比べて、光の測定は非常に低雑音で行うことができるため、電気信号を扱う様々な分野において計測の感度を劇的に向上する可能性が示されました。この研究報告に大変感銘を受け、いつかこれをNMR に適用しよう、と決めて始めたエキサイティングな研究開発(あるいはドタバタ劇)の話をします。言える範囲内で裏話も含めて。

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題目:宇宙マイクロ波背景放射偏光精密観測衛星LiteBIRD

講師:石野 宏和 氏(岡山大学・自然科学研究科・教授)
日時:11月30日(金)15:30〜16:30
場所:神戸大学理学部 Z103教室

内容

宇宙開闢直後に発生した宇宙の大加速膨張(インフレーション)仮説は、ビックバン理論に内在する問題を一挙に解決することができる。インフレーションの時に時空の量子ゆらぎで発生した原始重力波の検出はその直接的な証拠になる。原始重力波は、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)にBモードと呼ばれる偏光を刻む。我々はこの偏光を検出するために、科学衛星計画LiteBIRDを推進している。本講演では、LiteBIRDについてお話しします。

ポスター

題目:タイプIa型超新星のm-z関係におけるレンズ効果を用いたニュートリノ質量と暗黒エネルギーへの制限

講師:二間瀬 敏史(京都産業大学理学部・教授)
日時:10月24日(水)16:00〜17:00
場所:Z103 教室

内容

宇宙の大規模構造はそれによる弱い重力レンズ効果によってあらゆる宇宙論的観測に影響を与え雑音となる。しかしこの雑音には宇宙論的な情報が含まれており、それを引き出すことによって重要な情報が得られる。このことをタイプIa型超新星の見かけの明るさと赤方偏移関係におけるレンズ効果を例にとって考察する。近い将来行われる近赤外サーベイWFIRSTやLSST(Large Synoptic Surcey Telescope)で期待される超新星のデータを用いることで、ニュートリノ質量に対して0.2eV程度や暗黒エネルギーに対する現状よりもより厳しい制限が求められることを示す。

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題目:非クラマース系 Pr 化合物 PrT2Al20 における低エネルギー磁気励起の研究

講師:久保徹郎 (岡山理科大学・助教)
日時:8月3日(金)17:00~18:00
場所:Z103 教室

内容

近年、PrT2X20 系 (T=遷移金属、X=Zn, Al, Cd) は低温で異常な金属状態、多極子秩序、非従来型超伝導などを示すことから盛んに研究されている。それら新奇な現象の発現には、Pr 4f 電子の結晶場基底状態である非クラマース Γ3 二重項が高次多極子モーメントを持つことだけでなく、強い c–f 混成効果も重要であると考えられている [1]。
磁気双極子よりも高次の多極子 (電気四極子、磁気八極子、etc.) がもたらす多彩な物性を理解する上で、それらによる低エネルギー励起を捉えることが重要である。核磁気共鳴 (NMR) および核四重極共鳴 (NQR) では、電子系と相互作用する原子核からの信号を観測することで間接的に電子系の情報を得る。電子系と原子核の相互作用は適度に弱く、電子系を乱さずに低エネルギー励起を研究することが可能である。
我々は低温で非フェルミ液体的振る舞いを示す PrT2Al20 (T=Nb, Ta) [2] を対象とし、NMR、NQR によって多極子の揺らぎを捉え、c–f 混成を明らかにすることを目的として研究を行っている。揺らぎや混成に関わる物理量として、原子核の感じる内部磁場の揺らぎを反映する核スピン格子緩和率 1/T1 がある。我々は測定から得られた 1/T1 の温度・磁場依存性から系の磁気励起を理解するため、局在描像に基づいて結晶場モデルを用いた緩和率の計算 [3] を行っている。

[1] For review, T. Onimaru and H. Kusunose, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 082002 (2016).
[2] R. Higashinaka et al., J. Phys. Soc. Jpn. 80, SA048 (2011); J. Phys. Soc. Jpn. 86, 103703 (2017).
[3] K. Sugawara, J. Phys. Soc. Jpn. 44, 1491 (1978).

ポスター

題目:光で生成したスピン波の透過とエバネッセント現象の実時間イメージング

講師:佐藤琢哉 (九州大学・理学研究院・准教授)
日時:5月24日(木)15:10~16:10
場所:Z102 教室

内容

スピン波の試料端での反射や空気ギャップでの透過現象は、マグノニック結晶中のスピン波伝播の理解のために重要である。我々は、光パルスで生成したスピン波の空気ギャップでの透過現象を、CCDカメラを用いたポンプ-プローブ法によって時間・位相分解イメージングする研究を行ってきた。実験においては、厚さ110μmのビスマス添加希土類鉄ガーネット結晶を試料として用いた。時間幅150fsの円偏光ポンプ光パルスによって逆ファラデー効果の作用で試料を励起しスピン波を生成した。一方、時間遅延したプローブ光のファラデー回転を測定することでスピン波を検出した。幅40μmの空気ギャップをはさむ2枚の試料のうち、左側の試料で生成されたスピン波が、ギャップを超えて右側の試料に透過する様子を観測した。スピン波の波長は100-200μm程度であり、これはスピン波が磁気双極子が支配的な静磁波であることを示唆している。我々はスピン波の透過率、位相シフトと、ギャップ幅の関係を詳細に調べ、Green関数を用いた数値計算およびマイクロマグネティックシミュレーションの結果との比較から、スピン波の透過におけるエバネッセント現象を確認した。

ポスター

題目:物質におけるスピン軌道結合の効果 ― “ディラック”を超えた先に何が見えるか ―

講師:伏屋雄紀(電気通信大学・准教授)
日時:5月10日(木)17:00~18:00
場所:Z101 教室

内容

1964年、P.ウルフはビスマスなどスピン軌道結合の強い物質の低エネルギー状態が、相対論的量子力学におけるディラック方程式と等価な方程式で記述されることを見いだした。現在では、グラフェンやトポロジカル絶縁体、ワイル電子系の爆発的な研究と相まって、物質中ディラック電子の研究は著しい展開を見せている。ただし、電子の運動がディラック方程式で記述されるのは、無数にあるエネルギーバンドのうち2つのみを考えた場合だけである。多数のバンドがスピン軌道結合によって複雑に絡み合ったとき、これまで予想できなかった新たな物性が生じる。本講演では、そうした「ディラック近似」の先に見える新しい現象(異常ゼーマン効果、100%バレー分極、トポロジカルに非自明な表面状態)について、最近の研究成果を紹介する。

題目:キセノンガス検出器で開拓する稀事象探索

講師:中村輝石(神戸大学・理学研究科・学振特別研究員PD)
日時:4月23日(月)17:00~18:00
場所:Z103 教室

内容

ニュートリノはマヨラナか、否か。この問題に決着をつけられるほぼ唯一の手段がニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊(0νββ)探索実験である。京大を中心とするAXELグループでは、高圧キセノンガスを用いて、大質量・高エネルギー分解能・強いバックグラウンド除去能力の3つを兼ね備えた検出器を0νββ探索に向けて開発している。本講演では、二重ベータ崩壊探索および、AXEL実験、さらに個人的にはまっている到来方向に感度を持つ暗黒物質探索への応用について述べたい。

ポスター


2017年度

題目:超弦理論の最前線:宇宙は量子ビットから創られているのか?

講師:高柳匡(京大基礎物理学研究所 教授)
日時:3月7日(水)17:00~18:00
場所:Z103教室

内容

ブラックホールの考察から発見された「ホログラフィー原理」は「重力の物理学」と「物質の物理学」を結びつける。ホログラフィー原理を具体的に実現するのがゲージ重力対応 (AdS/CFT 対応 ) であるが、既に20年以上研究が続けられているにも関わらず、その基礎的なメカニズムは解明に至っておらず、ブラックボックスの状況であった。しかし、ようやく最近になって量子情報理論の考え方を導入することで、その謎が解き明かされつつある。また、このアプローチの最近の進展によって「宇宙が無数の量子ビットが集まったもの」という新しい描像が得られつつある。この最新の超弦理論の話題を紹介する。

ポスター

題目:トリウム229極低エネルギー準位の探索 ー 究極の「原子核時計」の実現に向けて ー

講師:吉村浩司(岡山大学・異分野基礎科学研究所・量子宇宙研究コア 教授)
日時:12月22日(金)15:30〜17:00
場所:Z103教室

内容

数千種類ある原子核の中で、原子番号90の元素トリウム229のみがeV程度の特異に低い励起準位を持ち、コヒーレントなレーザー光による操作可能な唯一の原子核として注目されている。原子核は、原子内電子の遮蔽により外場の影響を受けにくいため、原子物理で用いられている多彩な実験手法を利用した応用が可能となる。原子核を用いた周波数標準(原子核時計)が実現できれば、最先端の原子時計をはるかに上回る精度を達成できる可能性があり、またその基礎物理への応用も期待されている。 その利用には、実際に励起準位を観測してそのエネルギーをレーザー励起可能な精度で決定する必要があるが、2016年にドイツの実験グループが内部転換電子を用いて実際に励起準位を観測する[1]まで、30年以上にもわたって励起準位の存在すら確認されなかった。我々のグループは高輝度放射光X線を用いた核共鳴散乱の手法を利用して、脱励起光を直接観測してそのエネルギーを決定してレーザー励起を達成すべく実験を行なっている。ここではトリウム229励起準位探索の最新の動向と、今後の展望にいて講演する。

[1] Lars von der Wense et al., "Direct detection of the 229Th nuclear clock transition”, Nature 533, 47-51 (05 May 2016)

題目:物質とchirality:磁性と光の視点から

講師:岸根順一郎(放送大学 教授)
日時:11月28日(火)17:00〜18:00
場所:Z303教室

内容

現在、物質科学の分野にchiral磁性、chiral ラズモニクス、chiralフォトニクスといった分野が存在してそれぞれ独自の発展を見せている。各分野は異なる源流を持つが、「chiralityは物質機能と直結する」という認識を共有している。本談話会では、磁性と光のchiralityをテーマに関連分野の現状と展望を紹介する。

題目:近藤格子系はまだまだ面白い:混成ギャップを持つ反強磁性秩序とフラストレーションによる量子臨界現象

講師:高畠敏郎(広島大学大学院先端物質科学研究科 教授)
日時:11月21日(火)17:00〜18:00
場所:Z302教室

内容

近藤格子系の具体例であるセリウム金属間化合物は、4f電子と伝導バンドとの混成の仕方とその程度によって、価数揺動状態や重い電子の超伝導などの様々な基底状態をとるため、多くの研究者の興味を集めてきた。
本講演では、我々が研究している二つの例を紹介する。一つは、混成ギャップを持ちながらも反強磁性秩序するCeT2Al10 (T = Ru, Os)である。その反強磁性秩序をもたらす機構とその転移温度がなぜ高いのかについて調べた[1]。他方は、単純な価数揺動系と考えられていたCeRhSnである。
最近、カゴメ格子特有のフラストレーション効果によって、この化合物は常圧で量子臨界点近傍に位置することが判った[2,3]。

[1] J. Kawabata et al., Phys. Rev. B 95, 035144/1-9, 2017.
[2] Y. Tokiwa et al., Sci. Adv. 1, e1500001/1-6, 2015.
[3] C. L. Yang et al., Phys. Rev. B 96, 045139/1-7, 2017.

題目:重力波検出成功の決定必要事項と今後の観測

講師:神田展行(大阪市立大学・理学研究科・教授)
日時:11月1日(水)17:00~18:00
場所:Z103教室

内容

2017年のノーベル物理学賞は、R.Weiss, B.Barish, K.Thorneの3氏に、"for decisive contributions to the LIGO detector and the observation of gravitational waves"として与えられた。3氏の"決定的な貢献"は、レーザー干渉計型重力波検出器の原理からの技術実証、それを大型実験として実現したこと、検出を裏付ける理論的なフレームワーク、であろう。これらを解説し、延いては今後の重力波観測、特に現在観測に向けて建設中のKAGRA実験にとって重要と考えられることを考察する。また、初観測以降、次々と重力波事象の観測例が得られており、ブラックホール連星の起源を始め、多くの議論を呼んでいる。それらを紹介し、今後の重力波観測の展望について述べる。

題目:Geant4 の医学・生物学への応用研究

講師:岡田勝吾(神戸大学・先端融合研究環)
日時:7月7日(金)15:30~16:30
場所:Z102教室

内容

Geant4は高エネルギー物理学実験用途に開発された放射線シミュレータです。
国際共同プロジェクトとして開発がスタートして既に20年が経過し、今では宇宙物理、加速器、物質科学など高エネルギー物理以外の分野でも幅広く使われています。Geant4日本グループは医学・生物学への応用研究を展開しています。
ここ数年間での大きなアクティビティとしては、GPGPUによるGeant4の高速化が挙げられます。医学物理士により、がんの粒子線治療の線量計算にGeant4を使用する治療施設が国内にあります。
しかし、モンテカルロ法が故に長い計算時間を必要とするため高速化の需要が高く、それに応えるため、SLAC、スタンフォード大学と共同でGPUベースの新しいシミュレータ「MPEXS」を開発しております。学際的な面では、DNAの放射線損傷を数値的に予測することを目的としたGeant4-DNAプロジェクトにも参加し、開発を行っています。細胞内部における荷電粒子によるエネルギー付与の微細構造、ラジカルの分布の計算がDNA 損傷の機構を知る上で重要とされていますが、CPUで行うには計算量が膨大なため、Geant4-DNAのMPEXSへの拡張も並行して行っています。
現段階での研究成果についてお話したいと思います。

題目:マイクロ波複素伝導度測定による超伝導研究

講師:前田 京剛(東大院総合文化)
日時:6月14日(水)17:00~18:00
場所:Z103教室

内容

超伝導現象は、電気抵抗ゼロに代表される、きわめて特異な電磁気現象である。直流電気抵抗はひとたびゼロになってしまうと何も情報を与えてくれないが、交流の電気伝導は、超伝導に関するさまざまな情報の宝庫である。本談話会では、我々のマイクロ波-THz領域の電気伝導度測定を手法の中心に据えた超伝導体研究、特に銅酸化物高温超伝導体、鉄系超伝導体に対する研究の中から2〜3の話題を選んで紹介する。具体的には、超伝導ゆらぎ測定による銅酸化物超伝導体の発現機構の研究、磁束量子のフロー、マイクロ波顕微鏡による局所伝導度測定の研究他。

題目:重力波天文学の幕開け

講師:柴田 大 (京都大学基礎物理学研究所)
日時:5月12日(金)15:00~16:00
場所:Z103教室

内容

2015年9月14日、アメリカの重力波望遠鏡advanced LIGOが、2つのブラックホールからなる連星系の合体による重力波の初観測に成功した。アインシュタインが一般相対性理論を導出してから、ちょうど100年目に達成された偉業であった。その後、12月26日にも、2例目の重力波が観測された。Advanced LIGOは、感度を年々向上させることを予定しており、また日本の重力波望遠鏡KAGRAも2年後には本格運用を始める計画である。今後は、ブラックホール連星からの重力波が次々と観測されるのは間違いない。さらには、中性子星を含む連星からの重力波も観測されると予想できる。本講演では、重力波とは何か、有望な重力波の発生源は何か、重力波を観測するとどのような新たな知見が得られるのか、について述べる。

題目:-宇宙創成の謎にせまる- 国際リニアコライダー計画

講師:ヤン ジャクリン (KEK)
日時:4月14日(金曜)15:30~17:00(後半30分は、講師との懇親会)
場所:Z103教室

内容

国際リニアコライダー(ILC)は次世代の電子陽電子衝突エネルギーフロンティア加速器として、世界中の研究者の国際協力のもと研究開発・設計が行われています。国際プロジェクトILCの日本国内誘致に向けた動きも加速しています。本セミナーでは、ILCで期待されるヒッグス粒子やトップクォークの研究と新粒子発見の可能性、最先端の超伝導加速技術を用いた加速器設計、およびILC計画の概要について、ILC計画に携わる若手研究者が解説します。


2016年度

題目: 近藤効果の遥かな旅--磁性不純物から量子色力学へ

講師:倉本義夫(KEK物質構造科学研究所特別教授)
日時:2月7日(火)17:00~18:00
場所:Z103 教室

内容

高度かつ多様に発展した現代物理学の全貌を把握することは容易ではない、しかし、物理法則の普遍性は多様性の中にも貫徹しているため、断面の選び方によっては意外な共通性を見出すことができる、例えば繰込み、漸近自由性、閉じ込めなどの概念は、物性物理学と素粒子・原子核物理学の異なる階層性を貫く大鉱脈である、物理法則の普遍性を体現した典型例の一つが近藤効果である、近藤効果は磁性不純物の電気抵抗に端を発しているが、劇的な繰込み効果のインパクトのために、その舞台は半導体微細構造や量子色力学(QCD)にも及んでいる、本講演では、近藤効果の50年に及ぶ遥かな旅路の中から、我々自身が遍路した箇所、特に軌道近藤効果、複合体秩序、QCD近藤効果などを議論し、将来への展望を探る。

題目: 21cm線観測が照らす宇宙暗黒時代と最初期星形成

講師:杉山 直(名古屋大学大学院理学研究科)
日時:12月2日(金)15:00~16:00
場所:Z103 教室

内容

宇宙は誕生後38万年でいったん中性化し、その後、最初期の星やクエーサーからの紫外線放射を受けて、再び電離する。中性化から最初の星誕生までを宇宙暗黒時代、最初期星形成期を宇宙の夜明けと呼び、その詳細な解明が待たれている。近年、中性水素が放射する21cm線を用いれば、その時期を探査できる可能性が指摘され、大きな注目を集めている。それとともに、オランダを中心としたLOFAR、オーストラリアのMWA、さらにはヨーロッパを中心とした巨大プロジェクトSKAといった、いくつもの観測計画が立案され、実行に移されつつある。ここでは、宇宙の暗黒時代と夜明けの時代について、これまで何がわかっていて、21cm線を用いて、今後いったい何が明らかにできるのか、また観測の現状と、将来計画などについて概説する。

題目: The effect of magnetic anisotropy on the dynamical phase and on the geometrical phase of the electron spin quantum bits of the isolated Mn2+, Co2+, Fe3+ transition metals and of the Fe3+ complexes in ZnO single crystal.

講師:BENZID Khalif(分子フォトサイエンス研究センター)
日時:11月25日(金)13:20~14:20
場所:Y103 教室

内容

The talk will present the study, using pulsed EPR (p-EPR), the quantum coherence of electronic spins qubits of isolated transition metal ions of Mn2+, Co2+, Fe3+ and Fe3+/Cs+ as well as Fe3+/Na+ complexes, all found as traces in mono-crystalline ZnO. Indeed, the study has demonstrated experimentally that the magnetic anisotropy -the Zero Field Splitting coupling (ZFS)- can alter the coherence of the dynamical phase of electronic spins qubits under a microwaves manipulation. We will see a small decoherence for Mn2+ and Fe3+, spins having the both a small uniaxial magnetic anisotropy (D), and on the contrary, we will see a very strong decoherence for Co2+ spins having a very strong uniaxial magnetic anisotropy (D). in the other hand, we will see that the electronic spins of the Fe3+/Cs+ complex, having a more complex magnetic anisotropy tensor (D) compared to the simplest uniaxial one of isolated Fe3+ spins in ZnO, have almost the same coherence time. For instance, the talk will present a theoretical study of the magnetic anisotropy effect on the geometrical phase showing, by using the perturbation theory, an additional term to the usual geometrical Berry phase, due to the magnetic anisotropy which exists in all systems having a spin S>1/2.

題目: Belle2 実験について

講師:中村 勇(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所)
日時:10月14日(金)15:30~16:30
場所:Z103 教室

内容

Belle2実験はKEKで行われる予定の実験です。SuperKEKB加速器を用いてBやtauを大量に作り、その精密測定によりCKM行列の行列要素や崩壊分岐比を測り、標準模型の検証や標準模型を越える新しい物理を探索することを目的としています。 本講演ではBelle2実験について、その実験の概要と現在行われている準備作業について、なるべくわかりやすく説明したいと思います。

題目: アメリカでの大学教育と固体物理学研究

講師:古川裕次(アイオワ州立大学・国立 AMES 研究所)
日時:8月3日(木)15:10~16:40
場所:Z201/202 教室

内容

アメリカの大学における学部及び大学院教育を、アイオワ州立大学の物理学科を例として、紹介するとともに、現在私がアイオワ州立大学で行っている核磁気共鳴を用いた強相関電子系の研究の一部を紹介する予定です。セミナーは主として英語を用いて行う予定です。

題目: 空間反転対称性の破れたBaNiSn3型化合物の超伝導とフェルミ面

講師:木村憲彰(東北大学大学院理学研究科)
日時:7月14日(木)17:00~18:00頃
場所:Z102 教室

内容

正方晶BaNiSn3型結晶構造は反転中心のない、いわゆる空間反転対称性の破れた構造である。この結晶構造を持つ物質は重い電子系のCeTX3(T=Co, Rh, Ir, X=Si, Ge)に限らず、弱相関と呼ばれる物質でも超伝導が数多く見出されている。これら物質群は空間反転対称性の破れた超伝導および重い電子系双方の舞台として興味深い。本セミナーでは、LaRhSi3の超伝導と、CeIrSi3の電子構造の圧力変化について紹介する。LaRhSi3はバルクの臨界磁場をはるかに超える磁場でもゼロ抵抗が観測され、この現象は通常の表面超伝導では説明できない。またこの物質は、Type-II/1と呼ばれる超伝導特性を示し、異常に高い表面超伝導はType-II/1超伝導と関連していることが最近分かってきた。CeIrSi3では、圧力の印加とともに磁気抵抗が大きく変化することが分かり、反強磁性相内でフェルミ面の相転移が起きている可能性があることが明らかとなった。

題目: カゴメ格子上の強相関系

講師:堀田知佐(東京大学 総合文化研究科)
日時:6月28日(火)17:00~18:00頃
場所:Z103 教室

内容

カゴメ格子は代表的なフラストレート格子であり、フラットバンドや安定なディラックポイントなどバンド構造にも特徴的な性質が見られる。ここ10年来世界中の注目を集めてきたのは Herbertsmithite (Zn Cu_3 (OH)_6 Cl_2) のミニマルモデルとおぼしきS=1/2 ハイゼンベルグモデルの基底状態がスピン液体ではないか?という疑問であろう。その背後には、元々電子系のレベルでも低エネルギー状態が他の格子と比べて極端にシングレットボンドを作りやすい傾向にあるという、カゴメ特有の事情があると思われる。実際、低エネルギー状態においてこうしたボンドやループ構造が有効的な自由度となって、フラストレート系ならではのダイナミクスで動き回ることにより多彩な相が得られることは、ここ数年来の研究からわかってきた事実である。 本セミナーでは、格子と構成粒子のフィリングが整合な場合に、相関と量子効果が相まって起こるいくつかの変わった「相」について、その発現機構とともに紹介する[1,2]。とくに 1/3-filling の電子系の強結合領域における電荷とスピンの他には見られない独特の interplay の様子[2]を解説する予定である。

[参考文献]
[1] S. Nishimoto, N. Shibata, C. Hotta, Nature Comm. 4, 2287 (2013).
[2] F. Pollmann, K. Roychowdhury, C. Hotta, K. Penc, Phys. Rev. B 90, 035118 (2014).

【特別談話会】ニホニウム誕生を学ぶ

日時:6月24日(金)14:00~17:00頃
場所:Z102 教室

内容

14:00~:はじめに 播磨尚朝(物理学専攻)
14:15~:「元素誕生の謎にせまる」(理化学研究所作成のビデオ)
15:00~:「ニッポニウム発見事情ー小川正孝とウィリアム・ラムジー」(講演映像)吉原賢二先生(東北大学名誉教授)
16:00~:「元素はどこまで知られているか」(講演映像)森田浩介先生(九州大学教授、理化学研究所)
17時頃終了予定

113番目の元素の命名権が、日本の理化学研究所超重元素研究グループの森田 浩介グループディレクター(九州大学大学院理学研究院教授)を中心とする研究グループに与えられていましたが、最近、元素名案は「nihonium(ニホニウム)」、 元素記号案は「Nh」とされていることが発表されました。
実は、日本人が元素名を提案するのはこれが初めてではありません。今から100年以上前に、Nipponium(ニッポニウム :Np)という元素が周期表に載っていました。特別物理談話会では、理化学研究所が作成したビデオで元素誕生について学んだ後、2つの講演映像で「幻のニッポニウム」から今回の「ニホニウム」誕生までを学びます。これらの映像は、2012年8月に開催された科学セミナー(日本物理学会主催)での講演を記録した貴重なものです。
吉原先生は、元東北大学総長小川正孝が明治41年(1908年)に発見を報告したもののその後顧みられなくなっていた新元素ニッポニウムの実在を突き止め、2008年(平成20年)化学史学会学術賞を受賞されたニッポニウム研究の第一人者です。
新元素にニホニウムを提案された森田先生のこの時の講演は、3回目の113番目の元素が合成される2日前のものであり、元素命名権獲得への思いも述べられています。
長時間に及ぶ談話会ですので、途中の入退室は自由です。気軽にご参加下さい。

題目:スーパーカミオカンデにおける太陽ニュートリノ研究

講師:中野佑樹 (粒子物理学研究室 学術研究員)
日時:5月20日(金曜)15:30~16:30頃
場所:Z103 教室

内容

スーパーカミオカンデ(SK)は50ktonの水チェレンコフ型検出器で[1]、陽子崩壊探索や太陽・大気ニュートリノ観測、加速器実験(T2K)などを行っています。1998年にスーパーカミオカンデ実験によって大気ニュートリノ振動が発見されました[2]。この業績は 2015年の梶田氏のノーベル物理学賞の受賞に代表されるように世界的に評価されています。その後、2001年にスーパーカミオカンデ実験の8B太陽ニュートリノ観測結果とカナダの SNO 実験の観測結果を比較することにより、太陽ニュートリノ振動の発見がなされました[3,4]。
SKは2008年9月以降、新エレクトロニクスを導入し、現在はSK-IVというphaseで観測を継続しています[5]。本講演では、太陽ニュートリノ観測に話題を絞り、SK-IVの約2055日分の最新結果、及び、SK-I~SK-IVの約4890日の結果を報告したいと思います[6]。特に、SKを用いた太陽ニュートリノ観測における、(1)太陽中心でのMSW効果[7,8]によるエネルギースペクトラムの歪みの観測、(2)地球の物質効果による太陽ニュートリノフラックスの昼夜変動の観測[9]、(3)太陽活動と太陽ニュートリノフラックスの相関[10]に関して紹介します。最後にSKの今後についてもいくつかお話ししたいと思います。

[参考文献]

[1] S. Fukuda et al., Nucl. Instrum. Meth. A501, 418 (2003).
[2] Y. Fukuda et al., Phys. Rev. Lett. 81, 1562 (1998).
[3] S. Fukuda et al., Phys. Rev. Lett. 86, 5651 (2001).
[4] Q. Ahmad et al., Phys. Rev. Lett. 89, 011301 (2002).
[5] S. Yamada et al., IEEE Trans. Nucl. Sci. 57, 428 (2010).
[6] 中野 佑樹 博士論文 東京大学大学院 (2016).
[7] L. Wolfenstein, Phys. Rev. D17, 2369 (1978)., L.Wolfenstein, Phys. Rev. D20, 2634 (1979).
[8] S. Mikheyev and A. Smirnov, Sov. J. Nucl. Phys. 42, 913 (1985).
[9] A. Renshaw et al., Phys. Rev. Lett. 112, 091805 (2014).
[10] Y. Nakano, Pos(ICRC2015) 10088.

題目:多価イオン科学 -分光研究からナノ科学までー

講師:櫻井 誠 氏(神戸大学理学研究科)
日時:4月28日(金曜)17:00~
場所:Y201 教室

内容

宇宙の物質の99%以上はプラズマ状態にあるといわれているが、とくに温度の高いプラズマの中では多価イオンが主役である。たとえば太陽コロナの中では鉄をはじめシリコン、マグネシウムなどさまざまな元素が多価イオンとなって存在している。
多価イオンは原子番号(1~92)と価数の組み合わせで約5000通り存在し得るため、多価イオンの観測が始まった1920年頃から100年経った現在でもその殆どが未知といってよい。
多価イオンの性質についても多様な側面があり、多価イオン単体のエネルギー準位に関する分光学的性質、多価イオンと他の原子・分子・固体表面との衝突過程、固体表面との衝突における様々な2次過程などがある。
本講演では、多価イオン源や上記の多価イオンの性質とこれに基づくナノ科学に関するこれまでの研究について概観する。


2015年度

題目:SrPtAs の超伝導とトポロジー

講師:御領 潤(弘前大学理工学部)
日時:12月15日(火)17:00~18:00頃
場所:Z103 教室

内容

岡山大の野原グループにより発見された SrPtAs の超伝導[1]についてお話しします。この物質は反転対称性が局所的に破れている結晶構造を持ち、これを起因とした特徴的なスピン軌道相互作用が誘起されます。また、クーパー対の波動関数の対称性はカイラルd-波と呼ばれるトポロジカルな超伝導状態である可能性が高いことが指摘されています[2,3,4]。この超伝導状態から期待される興味深い現象として、

(i)カイラルな表面状態が現われること
(ii)スピン軌道相互作用の影響により、カイラルな表面状態がスピンを運ぶこと[4]

などについてお話したいと思います。

[参考文献]
[1] Y. Nishikubo, K. Kudo, and M. Nohara, JPSJ80, 055002 (2011)
[2] J. Goryo, M. Fischer, and M. Sigrist, PRB86, 100507(2012)
[3] K. Biswas, et al. PRB87, 180503(R) (2013)
[4] M. Fischer, et al. PRB89, 020509(R) (2014)
[5] カイラルp-波超伝導体Sr2RuO4の場合: M. Imai, K. Wakabayashi, and M. Sigrist, PRB85, 174532(2012); PRB88, 144503(2013).

題目:硫化水素が示す約200Kの高温超伝導

講師:清水 克哉(大阪大学基礎工学研究科附属極限センター)
日時:12月11日(金)17:00~18:00頃
場所:Z103 教室

内容

昨年12月にairXivに報告された190Kの超伝導[1]は、高圧力下ではあるものの、20年間以上停滞していた超伝導転移温度の最高温度の記録を大幅に更新するもので、多くの研究者に注目されると同時に、その真偽を明らかにするために再現実験や追試が求められてきた。 今夏にマイスナー効果のデータを加えて、203Kの超伝導[2]としてNature誌で発表されるに至ったが、現在までに超伝導を支持する再現実験は、我々のグループによる実験に限られているようである。
一方で、高圧力下の結晶構造や超伝導転移温度は理論計算[3,4]によってよく説明されてきている。 そもそも、室温にせまるような超伝導転移温度は、水素を高密度に圧縮した固体金属水素において理論予測されてきた[5]が、実験的にはその生成は達成されていない。 その一方で水素を多く含有するいわゆる水素リッチな物質である水素吸蔵合金や炭化水素などを高密度に圧縮すれば、内在する水素由来の超伝導性が期待できると考えられてきた。 この硫化水素は軽量な水素リッチシステムのひとつといえる。
我々は、Eremetsらがセットした試料の入った高圧装置を受け取り、阪大の冷凍機および電気抵抗測定装置を用いて電気抵抗の温度依存性を測定したところ、文献[1]と同じ超伝導転移および、磁場による転移温度の抑制を確認した。この試料をSPring-8において結晶構造を測定したところ、超伝導転移温度前後における結晶構造は、Cuiらの理論予測[6]した結晶構造を再現しており、硫黄原子が体心立方で配置するIm-3mであることが分かった[7]。
また、我々独自にセットした試料においてもややブロードながら、180Kの超伝導転移温度を再現した。

[参考文献]
[1] A. Drozdov et al., arXiv: 1412.0460 (2014), arXiv: 1506.08190 (2015).
[2] Y. Li et al., J. Chem. Phys. 140, 040901 (2014) など.
[3] I. Errea et al., Phys. Rev. Lett. 114, 157004 (2015) など.
[4] A. Drozdov et al., Nature 525, 73 (2015).
[5] N. Achcroft, Phys. Rev. Lett. 21, 1748 (1968).
[6] D. Duan et al., Sci. Reports 4, 6968 (2014).
[7] M. Einaga et al., arXiv:1509.03156v1 (2015).

題目:CMB偏光実験の最前線

講師:田島 治(KEK 素粒子原子核研究所)
日時:12月4日(金)17:00~18:00頃
場所:Z103 教室

内容

宇宙初期に何がおき、どう進化してきたか?宇宙マイクロ波背景放射(CMB)をはじめとする様々な観測は、これらの問いを少しずつ解明している。実験技術の向上とともに観測精度も向上し、今やインフレーション宇宙論の研究を観測的に行う事も可能となってきている。特に、CMB偏光の精密観測はその最良のプローブとして注目され、数度角以上の大きな非対称パターン「Bモード」はインフレーションの決定的な証拠となる。
そのため、世界中でその観測実験が活発化している。本セミナーでは、CMB偏光観測実験の基礎とともに、最新の話題・展望について解説を行う。

題目:まもなく始まる Belle II 実験

講師:西田 昌平(KEK 素粒子原子核研究所)
日時:10月30日(金)15:30~16:30頃
場所:Y201 教室

内容

1999年から2010年までつくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)で行われた Belle実験は、電子陽電子衝突型加速器 KEKB を用いて大量のB中間子を生成してその崩壊を調べる実験で、CP対称性の破れの発見することによって小林益川理論を検証し、素粒子の標準模型の理解に貢献した。その後継の Belle II実験では、ルミノシティ(輝度)を40倍に増強したSuperKEKB 加速器を用い、B中間子の崩壊などをより精度よく測定することによって標準模型を超えた新物理の解明を目指す。
現在、SuperKEKB加速器は、建設の最終段階にあり、来年早々に試運転を予定している。また、Belle II検出器の建設も進んでいる。談話会では、Belle 実験の成果について振り返った後、Belle IIのめざす物理について講演する。また、Belle II測定器の準備状況についても紹介する。

題目:Bose-Einstein Condensation in Unusual Circumstances(尋常でない状況で起こるボーズ・アインシュタイン凝縮)

講師:Jean-Paul Blaizot(CEA-Saclay, France & 京都大学基礎物理学研究所)
日時:7月24日(金)17:00~
場所:Z103 教室

内容

There is robust evidence from the Relativistic Heavy Ion Collider (RHIC), and now from the Large Hadron Collider (LHC) that matter produced in ultra-relativistic heavy ion collisions reaches (nearly) local equilibrium, and flows like a ('perfect') fluid. However, according to our present understanding, the number of gluons that get freed in the early stages of the collisions, and which constitute the bulk of this fluid, are too numerous to be accommodated by an ordinary thermal distribution. Assuming that their number remains approximately constant as the system evolves toward equilibrium, a natural, albeit controversial, possibility is that the excess gluons form a Bose-Einstein condensate. Aside from its potential relevance to the specific problem of thermalization of the quark-gluon plasma produced in ultra-relativistic heavy ions, the dynamical formation of such a condensate is an interesting problem in itself, with connections to diverse fields of physics, ranging from cosmology to cold atom systems. Several aspects of this problem will be addressed in the talk.

題目:超高圧下での物性測定と圧力誘起超伝導現象

講師:上床 美也(東京大学物性研究所)
日時:6月25日(木)17:00~18:00
場所:Z103 教室

内容

3d遷移元素や4f希土類元素を含む化合物の磁性には、その遍歴性や局在性に起因した興味深い多彩な磁気構造がしばしば出現する[1]。これらの起源を明らかにする実験手段の1つとして圧力効果の研究がある。圧力効果の研究を行うためには、これまで特殊技術が必要とされてきたが、最近はピストンシリンダー型圧力装置を用いることにより、3GPa程度までの静水圧下の研究を比較的簡単に行うことが可能となっている。しかしながら、3GPa以上の圧力下の研究は現在でも特殊技術を必要とするとともに、この圧力領域においてはほとんどの圧力媒体が固化するため、静水圧性に敏感な試料を用いた研究を行う場合は注意が必要である。研究室では、ピストンシリンダー型圧力装置、キュービックアンビル圧力装置および改良型ブリッジマンアンビル圧力装置を使用し圧力誘起相転移現象の研究を行ってきた。最近、3d遷移金属化合物で圧力誘起超伝導現象を観測出来たので紹介する。
MnP 型構造を持つ 3d 遷移金属間 1対1化合物は、元素の組合せにより多彩な磁気秩序を示すため、その磁気相互作用の研究が古くから行われてきた。これらの物質のこの中で、CrAs は反強磁性秩序温度(TN~270K)以下で大きなボリューム変化(a、c軸に縮み、b軸に伸び、体積としては増加する)を伴う1次転移を示す物質として、MnPは強磁性秩序温度TC~291Kおよび長距離反強磁性秩序をTm~50 K以下で示す物質として知られている[1]。これらの物質の純良単結晶を用いた圧力効果の研究を行った。
CrAsおよびMnPの磁気秩序は圧力で抑制され、CrAsでは僅か9kbar、MnPにおいては6GPa以上で消失し、その臨界圧力がPC~9kbar および6GPa近傍で有ることが明らかになった。と同時に、この磁気秩序消失圧力近傍において、バルクな超伝導現象が観測された[2,3]。セミナーではこれらの物質で観測された圧力誘起超伝導現象について、その物性の圧力依存性について報告する。

[参考文献]
[1] 例えば、K. Motizuki et al., Electronic Structure and Magnetism of 3d- Transition Metal, Springer Series in materials science 131 (2009).
[2] H. Kotegawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 83, 093702 (2014), W. Wei et al., Nature Commun. 5, 5508 (2014).
[3] J. Cheng et al., Phys. Rev. Lett. 114, 117001 (2015)

題目:相対論効果が創発する新奇電子機能物質の開拓

講師:笹川 崇男(東京工業大学 応用セラミックス研究所)
日時:6月4日(木)17:00~18:00
場所:Z103 教室

内容

近年、固体中の電子状態に対する相対論効果に注目が集まっている。強いスピン軌道相互作用、波動関数の空間分布や固有エネルギー値への効果などを通じて、非磁性物質なのにスピン偏極したり、絶縁体表面に金属状態が出現したり、中身と表面で異なる超伝導状態になったり、といった新奇な電子状態が自発的かつ必然的に起こることが分かってきた。
本講演では、強い相対論効果に着目することで発見されたラシュバ物質・トポロジカル絶縁体・トポロジカル超伝導体などの新しい種類の電子機能物質について、研究の背景から最新の研究成果までを幅広く紹介する。

題目:ハイパーカミオカンデ計画

講師:鈴木 州(神戸大学大学院理学研究科物理学専攻・粒子物理学講座)
日時:4月24日(金)17:00~18:00
場所:Z103 教室

内容

1998年のスーパーカミオカンデによる大気ニュートリノ振動の発見を突破口に、素粒子理論の見直しを迫るニュートリノの性質が次々に明らかにされています。2011年には大強度陽子加速器J-PARCで作られたミューオンニュートリノビームをスーパーカミオカンデに照射するT2K実験により、3つあるニュートリノ振動モードのうち未確認であった最後の一つのモードも確認されました。
全てのニュートリノ振動モードが確認された今、ニュートリノ研究は更なる発展を目指し次のステージへ進みます。その一つとして計画されているハイパーカミオカンデ実験は、地下に設置される100万トン級(スーパーカミオカンデの20倍)の巨大水タンクとその中に並べる超高感度光センサーからなります。本講演では、その概要と目指す物理、および、開発研究の現状などについてお話しします。


2014年度

題目:Multi-frequency electron spin resonance spectroscopy study of the FeAs-based superconductors

講師:Dr. Alexey Alfonsov(Molecular Photoscience Research Center, Kobe University)
日時:1月30日(金)午後5時
場所:Z103 教室

内容

In this talk, I would like to present a detailed investigation of GdO1-xFxFeAs samples by means of high-field and high-frequency electron spin resonance (HF-ESR) complemented by the measurements of thermodynamic and transport properties. The parent GdOFeAs Compount exhibits Fe long-range magnetic order below 128 K. The fluorine for oxygen substitution yields a suppression of such a long-range order and induces a superconductivity with rather elevated critical temperatures Tc of 20 K - 45 K, depending on doping level. Interestingly, the Gd3+ HF-ESR reveals an appreciable anisotropic exchange interaction between Gd and Fe moments, which is frustrated in the absence of an external magnetic field. Owing to this coupling, Gd3+ HF-ESR can probe sensitively the evolution of the magnetism in the FeAs planes upon fluorine doping, starting with the parent compound, where the static magnetic order is clearly seen. Surprisingly, it is found that in the superconducting samples, where the Fe long-range order is absent, there are short-range, static on the ESR time scale magnetic correlations between Fe spins. Their occurrence on a large doping scale may be indicative of the ground states’ coexistence.

題目:Probing the string axiverse by gravitational waves from Cygnus X-1

講師:小玉 英雄(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所)
日時:11月28日(金)午後5時
場所:Z103 教室

内容

超弦理論コンパクト化は、高次元理論に含まれる多様なフォーム場のカイラルなシフト対称性のために、重いモジュライの超対称パートナーとしてアクシオンと呼ばれる多様な南部・Goldstone場を生み出す。これらのアクシオンは、隠れたセクターに含まれるゲージ場インスタントとの相互作用により微小な質量を獲得する。余剰次元の位相構造の複雑さを反映して、QCDアクシオンを含むこれらの超弦理論アクシオンの種類は100を超える可能性があり、その発見は、余剰次元の存在を示す強い証拠となる。
これら微小質量アクシオンは、そのCompton波長が宇宙の天体やホライズンスケールになると、様々な宇宙現象を引き起こし、超弦理論に対する観測的窓を提供する。特に、質量が1e-20eV ~ 1e-10 eVのアクシオンが自然法則に含まれると、増幅反射不安定により、現実に存在する回転するブラックホール天体の近傍で巨視的なアクシオン雲が形成され、重力波を放出する。本講演では、この議論をブラックホールX線天体であるCygnus X-1に適用することにより、これまでのLIGO観測データからアクシオンの質量および崩壊定数に対して強い制限が得られることを示す。

References:
H. Yoshino, H. Kodama: arXiv: 1407.2030.
Ibid: PTEP2014, 043E02 (2014) [arXiv: 1312.2326].
Ibid: PTP128, 153 (2012) [arXiv: 1203.5070].
H. Kodama: Int. J. Mod. Phys, Conf. Ser. 7, 84 (2012) [arXiv: 1108.1365].
Arvanitaki, S. Dubovski: PRD83, 044026 (2011) [arXiv: 1004.3558].
Arvanitaki et al: PRD81, 123530 (2010) [arXiv: 0905.4720].

題目:宇宙暗黒物質探索のための高純度結晶開発

講師:伏見賢一(徳島大学ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部)
日時:10月31日(金)午後5時
場所:Z103 教室

内容

宇宙暗黒物質と原子核の弾性散乱で期待される信号は一日、1トンの検出器に対して1イベント以下という極めて稀な事象である。そのため、宇宙暗黒物質探索に使用する検出器の素材は数pptレベルの高純度素材を使って組み立てる必要がある。宇宙暗黒物質を探索するために使用するシンチレーターの純度を向上させるとともに宇宙暗黒物質の信号をより効率よく検出するための低エネルギー測定(電子換算で1 keV)を実現することに成功したので、その結果を報告する。

題目:カシミール力:カンチレバーで探る真空のゆらぎ

講師:大道 英二(神戸大学大学院理学研究科)
日時:7月24日(木)午後5時
場所:Z102 教室

内容

カシミール力とは1948年にカシミールが理論的に予言した[1]、近接する2枚の電気的に中性な金属板間にはたらく量子力学的な力である。1997年のラモレーらによる最初の実験的報告[2]から17年たった今、カシミール力は純粋理論物理の分野から工学、生物分野へとその領域を広げつつある。本講演では、カンチレバーを用いた最近のカシミール力の実験的研究について概説し、その興味深い現象の一端を紹介したい。

[1] H. B. G. Casmir, and D. Polder, Physical Review 73 (1948) 360.
[2] S. Lamoreux et al., Physical Review Letters 78 (1997) 5.

題目:中性子ブリリアン散乱によるスピン励起の観測* - 強磁性酸化物 SrRuO3 のスピン波 -

講師:遠藤 康夫(東北大学名誉教授・高エネ研・理研)
日時:6月20日(金)午後5時
場所:Z201-202 教室

内容

中性子非弾性散乱の観測には大型の単結晶が必要不可欠という常識が横行している。勿論単結晶があれば問題はないが、何時も何時もある訳ではない。制約はあるが多結晶(粉末)試料で単結晶からの観測にひけを取らない方法として、Neutron Brillouin Scattering (中性子ブリリアン散乱)があり [1]、エネルギーの比較的高い中性子が使える pulsed neutron sourse と組み合わせて強磁性スピン波散乱観測法を確立すると共に、強磁性状態が Berry Phase と示唆されている SrRuO3 [2] のスピン励起の観測を試みた。この物質は異常ホール効果で強い cross conductivity が観測され、その解析から magnetic monopole の存在の可能性が理論的に議論されているので、中性子散乱によるスピン波の異常な温度変化と関連づけて議論したい。実験は J-PARC の中性子散乱施設(MLF)に設置された BL12 のHRC chopper 装置に高品位の SrRuO3 粉末試料を搭載して分光実験を行った。

*S. Itoh, T. Yokoo, Je-Geun Park, Y. Kaneko, Y. Tokura, N. Nagaosa,との共同研究

[1] S. Itoh, Y. Endoh, T. Yokoo,et al., J. Phys. Soc. Jpn., 82 (2013) 043001
[2] Zheng Fang, N.Nagaosa, K.S. Takahashi et al., Science 302 (2003) 92

題目:ニュートリノ振動実験の進展

講師:前田 順平(神戸大学自然科学先端融合研究環)
日時:5月16日(金)午後5時
場所:Z103 教室

内容

1998 年にスーパーカミオカンデで大気ニュートリノ振動が発見されて以来、ニュートリノに対して我々の理解は目覚ましい発展を続けています。特に第3の混合角θ13はCHOOZ実験で上限値のみが与えられていましたが、10 年以上の時を経た2011年から2012年にかけていくつもの実験から、有限値で測定された結果が発表されました。これは近年の検出器や加速器の技術、計算機資源の発展も相まった結果であり、これによってニュートリノ実験は新たなステップへ進もうとしています。
本講演では、ニュートリノ振動実験、特に近年の原子炉ニュートリノ振動実験を主に紹介し、さらに将来のニュートリノ物理の見通しについてお話しします。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねます。

題目:ウィーン滞在報告 -強相関希土類化合物の新物質探索-

講師:松岡 英一 (神戸大学大学院理学研究科)
日時:4月25日(金)午後5時
場所:Z103 教室

内容

昨年8月から本年2月までの半年間、ウィーン工科大学の Ernst Bauer 教授の研究室に学振の制度を利用して滞在した。伝導電子と、磁性を担う希土類のf電子との間に強い電子相関を持つ化合物(強相関希土類化合物)の中には、高い温度で磁気転移を示す化合物や、既存の超伝導理論であるBCS理論に従わない超伝導体等、その発現機構が未解明な物が少なくない。これらの未解明問題を解決する手段の一つが新物質開発である。今回の滞在期間中、電子物性研究室で推進している新物質探索に関する共同研究を行うと共に、物質開発の豊富な実績を有するBauer教授の下でそのノウハウを学んだので、その結果について報告する。また、ウィーン工科大学における研究・教育と、ウィーン市内の雰囲気などについても紹介したい。