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2021/12/15 更新

物理学専攻談話会(セミナー)

談話会は、月1回、原則として金曜日 17:00 より、Z103 教室で開かれます。2、 3、 8、 9月は原則としてお休みです。学部学生以上、他専攻、他学部の方も対象のセミナーです。皆様の参加お待ちしています。

2023年度

講師:石田 憲二 氏(京都大学大学院理学研究科)
日時:2023年12月26日(火曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:ウラン化合物UTe2の超伝導状態
  2018年に報告のあったウラン化合物UTe2の超伝導の報告は超伝導研究者に驚きを与えた[1]。なぜなら、超伝導転移温度は2 K程度にも関わらず磁場を特定の方向に印加すると60Tまで生き残り[3]、すべての結晶軸方向でスピン一重項超伝導から期待されるパウリ臨界磁場を大きく上回る[1,2]。また圧力下でも興味深い振舞いが見られ、静水圧下では0.3GPaを境に超伝導転移温度は上昇し、1.2 GPaで超伝導は3Kを示す。さらに、転移温度の上昇が見られた圧力領域では超伝導相内で新たな転移が見られ、異なる超伝導状態が実現する「超伝導多重相」の振舞いが報告されている[4]。これらの実験事実は、UTe2がスピン三重項超伝導を示唆する結果と考えられる。ただし、このスピン三重項超伝導は非常に稀であり、現在までその物性は理解されているとはいいがたい。  我々はTe元素を125Te (I = 1/2)に置き換えたUTe2単結晶を準備し、高磁場、圧力下、低温において核磁気共鳴(NMR)を行い、磁気励起や超伝導状態のスピン状態を調べている。現時点の実験結果を報告し、考えられる超伝導状態を議論する。
[1] S. Ran et al., Science 365, 684 (2019).
[2] S. Ran et al., Nat. Phys. 15, 1250 (2019).
[3] D. Aoki et al. JPSJ 88, 043702 (2019).
[4] D. Braithwaite et al., Commun. Phys. 2, 147 (2019).

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:岩崎 昌子 氏(大阪公立大学大学院理学研究科)
日時:2023年12月19日(火曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:大型加速器を用いた 素粒子実験への機械学習適用
  近年、大型加速器を用いた素粒子実験への機械学習の適用開発が、活発に行われるようになった。機械学習、深層学習は、情報分野における最先端データ処理技術である。大量データから得られる情報を使って、データの「モデル」(入力変数と出力変数の関係性の記述)を構築することができる。あらかじめ明確なモデルを用意しなくても、様々なデータ処理が可能になる、という特徴がある。この特徴を活かすことで、従来よりも、高速、高効率、高性能なデータ処理が、期待されている。 本講演では、機械学習の簡単な導入、および、現在講演者のグループが進めている、大型加速器を用いた素粒子実験への機械学習の適用開発状況を紹介する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:佐々 真一 氏(京都大学大学院理学研究科)
日時:2023年12月8日(金曜日)15:30-
場所:Z103室(対面)
題目:非平衡 ― 学問分野の発展と熱力学の拡張 ―
  流れや運動が本質的になる「マクロに動く世界」に対して、平衡系との対比を通して現象を理解したい。その動機にそって、豊かな現象を記述し、異なる階層間の関係を理解することで、現象の機構を明らかにする営みがなされてきた。談話会では、まず、19世紀から21世紀にわたる非平衡物理の大きな流れについて振り返る。その流れの中で、「熱力学は非平衡に拡張されるのか」という論点を切り出す。熱力学の拡張に関するレビューをしたあとで、熱伝導下相共存状態の熱力学量について問う。例えば、1気圧下の水を95度と105度の熱浴で挟んだときの気液界面が何度であるか、という基本的問題に対して、理論・実験ともに確固たる結果がないのが現状である。熱力学を非平衡へ拡張する枠組みである「大域熱力学」はその問題に答えることができて、100度から有意にずれることを予言する[1,2]。この大域熱力学の基本的な考え方と最近の数値実験の結果[3]について紹介する。
[1] N. Nakagawa and S.-i. Sasa, Phys. Rev. Lett.,119, 260602 (2017)
[2] N. Nakagawa and S.-i. Sasa, J. Stat. Phys.,177, 825-888 (2019)
[3] M. Kobayashi, N. Nakagawa and S.-i. Sasa, Phys. Rev. Lett.,130, 247102 (2023)

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:谷口 七重 氏(高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所)
日時:2023年11月1日(水曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:Belle II 実験の紹介と検出器の建設から運転まで
  現在、世界で唯一稼働中の電子陽電子衝突型加速器を用いたBファクトリー であるSuperKEKB・Belle II 実験では、圧倒的な統計データを用いた精密測定や稀 な事象の探索によって標準理論では説明できない事象の発見を目指しています。 セミナーでは、Belle II 実験の紹介と、私が携わっている荷電粒子の飛跡検出器に ついて建設から運転までの道のりをお話しします。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:樽家 篤史 氏(京都大学基礎物理学研究所)
日時:2023年10月17日(火曜日)17:00-
場所:Y202室(対面)
題目:To be or not to be: ダークマターハロー内部構造に見られる(非)普遍性
  ダークマターは、宇宙の成り立ち・構造を説明する上で不可欠な構成要素であるが、その起源や性質は未だよくわかっていない。しかし、宇宙論的観測からおおまかな特徴・候補が絞られており、さらなる観測を通じてその性質を突きとめるための理論研究が進んでいる。本講演では、ダークマターで構成された、ハローと呼ばれる自己重力束縛天体の普遍的とされる性質に着目する。数値シミュレーションから明らかになった、ダークマター候補ごとに見られるハロー中心部の顕著な特徴・違いについて概観し、それらの普遍性の意味するところについて、我々が行ったシミュレーションと解析計算の結果について報告する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:藤原正澄 氏(岡山大学学術研究院環境生命自然科学域)
日時:2023年7月26日(水曜日)17:00-
場所:Y202室(対面)
題目:ナノダイヤモンド量子センサーを用いた温度計測とその応用
  ナノダイヤモンド量子センサーは、高感度にナノスケールの磁場や温度を計測する手段として大きな関心を集めている。この技術は、光学顕微鏡観察下でダイヤモンド窒素空孔色欠陥中心の電子スピン状態を測定するものであり、原理検証は完了している。現在の研究の中心は、これを如何に特定の用途における応用に実装し、高感度かつ有用なセンサーとして利用するかという点となる。本講演では、生体温度計測やバイオ分析チップデバイスの開発など、我々の最近の成果について報告する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:手塚真樹 氏(京都大学大学院理学研究科)
日時:2023年6月28日(水曜日)17:00-
場所:Y202室(対面)
題目:Sachdev-Ye-Kitaev型模型における多体波動関数の振舞と量子誤り訂正
  Sachdev-Ye-Kitaev(SYK)模型は、多数のフェルミオンがランダムな全対全相互作用をする量子力学系であり、低温で「カオスの上限」を満たす。ブラックホールとホログラフィック対応をもつ模型の候補としても注目され、多くの研究が行われてきた。SYK模型に摂動項を加えてカオス性を失わせた模型[1]での、フォック空間における波動関数の局在[2]や、系を二分した際のエンタングルメントエントロピー[3]について、講演者らは、解析的手法と数値計算との結果を比較し、良い一致をみた。さらに、最近、この模型による時間発展での量子情報の非局所化(量子誤り訂正の形成)について、ブラックホールの情報喪失問題の量子情報理論的なトイモデルであるHayden-Preskillのプロトコルにより数値的に調べた[4]。SYK模型の項の数を減らすとともに係数の絶対値を定数に限った binary-coupling sparse SYK 模型[5]の場合と比較して議論する。
[1] A. M. García-García, B. Loureiro, A. Romero-Bermúdez, and M. Tezuka, Phys. Rev. Lett. 120, 241603 (2018) [arXiv:1707.02197].
[2] F. Monteiro, T. Micklitz, M. Tezuka, and A. Altland, Phys. Rev. Research 3, 013023 (2021).
[3] F. Monteiro, M. Tezuka, A. Altland, D. A. Huse, and T. Micklitz, Phys. Rev. Lett. 127, 030601 (2021) [arXiv:2012.07884].
[4] Y. Nakata and M. Tezuka, arXiv:2303.02010.
[5] M. Tezuka, O. Oktay, E. Rinaldi, M. Hanada, and F. Nori, Phys. Rev. B 107, L081103 (2023) [arXiv:2208.12098].

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:陳詩遠 氏(東京大学 素粒子物理国際研究センター)
日時:2023年6月2日(金曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:超伝導量子ビットを使ったダークマター探索
  超伝導量子ビットは比較的長いコヒーレンス時間と高い操作性を両立することから、量 子コンピューターを実現する非常に有力なテクノロジーの一つとして期待されている。 コヒーレンス時間の 6 桁改善に代表されるこの 20 年における発展は特にめざましく、 制御や集積の高度化も相まって近年では IBM-Q や Google Sycamore など 100 ビッ ト以上で駆動する実機も登場しており、開発の勢いは加速するばかりである。一方で超 伝導量子ビットはノイズに非常に敏感である。電磁気的ノイズやビットを形成する薄膜 や界面における不純物はもちろん、宇宙線の通過によっても簡単に状態が変わりエラー を発生させる。量子コンピューターの観点からは何一つありがたくない性質だが、一方 でこれは量子ビットが微弱な相互作用をする粒子 -例えばダークマターなど- に対す る高感度なセンサーとして使えることも意味する。重いダークマターが近年の直接探索 実験によって強い制限がつけられる中、eV 以下の質量を持つ軽いダークマターの探索 は重要性が増している。ダークフォトンやアクシオンが代表的な候補である。どちらも 光子 (電磁波) への転換が可能であるが、巨大な電気双極子を持つ超伝導量子ビットは この転換されて出てきた光子を検出することに長けている。また宇宙論的に最も好まし い O(μeV) から O(meV) の質量を持つダークマターから転換される光子の周波数は典型 的にマイクロ波領域 (0.1―100 GHz) である。これは現在量子コンピューターで使用さ れる超伝導量子ビットの典型的な帯域であり、現行の技術とも相性が良い。 この講演では、ハロスコープと呼ばれるダークフォトンやアクシオン探索の先行実験、 超伝導量子ビットの基礎的な性質を導入をした後、超伝導量子ビットをこれらの実験に 組み込んだ際に期待できる飛躍について議論を行う。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


2022年度

講師:河野浩 氏(名古屋大学理学研究科)
日時:2022年12月15日(木曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:反強磁性体における創発スピン電磁場-トポロジカルスピンホール効果とスピン起電力-
  電子スピンの流れであるスピン流と磁性体の磁化との相互作用はスピントロニクスに おける種々の現象の基礎的な過程である。スピン流は磁化にトルクを及ぼすことにより、 磁化反転や磁壁移動を引き起こす。逆に、磁化の運動は、伝導電子にスピンに依存する有 効起電力(スピン起電力)を及ぼすことにより、スピン流を誘起する。また、有限の立体 角を張る磁化構造は電子にスピンに依存する有効磁場を及ぼし、ホール効果を引き起こす (トポロジカルホール効果)。スピン起電力とトポロジカルホール効果は、スピン自由度 が創発する有効電磁場による効果として理解される。これらの現象は、これまで主に強磁 性体を用いて行われてきたが、最近は反強磁性体もスピントロニクスの新たな舞台として 注目されている。
 セミナーでは、強磁性金属におけるこれらの現象を概観しつつ、反強磁性金属におけ る創発電磁場 [1, 2, 3] の理論を紹介する。まず、ネールベクトルのトポロジカルな構造に 起因するトポロジカルスピンホール効果について、その本質はベクトルカイラリティであ ることを示す [2]。これは、強磁性体におけるトポロジカルホール効果がスカラーカイラ リティに起因することと対照的である。この効果は反強磁性ギャップの小さい弱結合領域 で増大することを見出したが、これは spin dephasing の抑制によるものとして理解でき る。次に、ネールベクトルの時間変化が伝導電子のスピン流を引き起こす現象(スピン起 電力)[3] について紹介し、反強磁性体における創発電磁ポテンシャルの存在を提案する。
[1] J. Nakane, K. Nakazawa, and H. Kohno, Phys. Rev. B 101, 174432 (2020).
[2] K. Nakazawa, K. Hoshi, J. Nakane, J. Ohe, and H. Kohno, in preparation.
[3] S. Hirata, Y. Toda, and H. Kohno, in preparation.

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:清水格 氏(東北大学ニュートリノ科学研究センター)
日時:2022年12月8日(木曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:二重ベータ崩壊実験によるマヨラナニュートリノの探索
  宇宙誕生直後に生成された物質と反物質は宇宙進化の過程で対消滅したが、現在の宇宙には反物質がなく物質だけが残されている。このことは、「宇宙物質優勢の謎」と呼ばれる素粒子・宇宙の大問題の1つであり、ニュートリノの性質が解決の鍵となると考えられている。ニュートリノは電荷を持たない中性粒子であるため、物質と反物質が同一の粒子、いわゆるマヨラナ粒子である可能性があるが、未だ実験的実証には至っていない。ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の観測はマヨラナニュートリノを証明する最も有力な実験的手法で、現在世界中で激しい競争が繰り広げられている。この講演では、二重ベータ崩壊実験の現状と展望を紹介する。また、現在神岡地下で行っているKamLAND-Zen実験の最新結果についても報告する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:大谷航 氏 (東京大学素粒子物理国際研究センター)
日時:2022年11月30日(水曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:ミュー粒子稀過程現象探索で迫る標準理論を超える新物理
  荷電レプトンが世代間を移り変わる現象は、重い新粒子による量子効果で引 き起こされるため、超高エネルギーでの未知の物理を探ることができる。新粒子 の発見など明確な新物理の兆候が得られていない中、新物理を強力に検証する手 段として注目されている。MEG実験はレプトンフレーバーを破る稀な崩壊現象 μ→eγを世界最高感度で探索する実験で、探索感度を約10倍改善したアップグレー ド実験MEG IIがいよいよデータ取得を開始した。本セミナーでは、荷電レプトン フレーバーを破る現象探索の国際的な動向とともにMEG II実験の現状と今後の展 望について紹介する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:吉岡英生 氏(奈良女子大学研究院自然科学系物理学領域)
日時:2022年11月29日(火曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:金属フラーレンポリマーにおける朝永-ラッティンジャー液体状態
  フラーレンポリマーは、フラーレン分子が一次元的に重合した物質であり、 同じく炭素だけからなる一次元物質カーボンナノチューブに周期的な凸凹を付加した構造をしている。この物質では、一次元系で顕著に現れる電子相関効果と幾何学的な形状効果の協奏による新奇物性が期待される。本講演では、第一原理計算よって得られた安定構造(2種類)のバンド分散に多チャンネルボソン化法を適用して フラーレンポリマーの性質を調べた結果を報告する。
  まず、状態密度について考察を行なった。状態密度はエネルギーおよび温度の関数として冪的な振る舞いを示し、その冪の値はカーボンナノチューブに比べ大きくなることを見出した。この結果は、近年行われたカーボンナノチューブおよびフラーレンポリマーの光電子分光の実験結果と一致している。しかしながら、状態密度において2種類の安定構造で定性的な差異は見られず、光電子分光ではどちらの安定構造が実際に実現しているかを判断することは難しいことが結論付けられた。一方、2種類の安定構造についてスペクトル関数の比較を行なったところ、実際に実現している安定構造を同定するのに十分であると期待される定性的な違いが見出された。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:山口哲 氏(大阪大学大学院理学研究科)
日時:2022年10月26日(水曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:場の理論における一般化された対称性について
  対称性は物理学において非常に基本的で重要な概念である。 近年、場の理論の対称性の概念に発展があり、従来は対称性と 呼んでいなかったものが、対称性と似た性質をもち、対称性と 同様に有用であることが分かってきた。これら「一般化された 対称性」の発見では、対称性を「トポロジカル欠陥」と呼ばれ るもので表すことが重要な役割を果たす。今回の談話会では、 対称性とトポロジカル欠陥についてお話したあと、一般化され た対称性の一種である非可逆対称性についてお話する。

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:Oliver Portugall氏(EMFL-LNCMI, CNRS, France、ISSP, University of Tokyo, Japan)
日時:2022年10月24日(月曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:Megagauss magnetic fields in Europe: current status and future projects
  Megagauss magnetic fields in Europe: current status and future projects 要旨:In this talk I will present the status of Megagauss activities in Toulouse, France. After a short introduction into the basic principle of magnetic field generation with single-turn coils, I will focus on current scientific projects including the study of high-Tc superconductors and organic semiconductors. New technical developments to investigate these material groups by electric transport measurements and THz-spectroscopy will be considered.

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:沙川貴大氏(東京大学大学院工学系研究科)
日時:2022年10月20日(木曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:Quantum Fluctuation Theorems under Measurement and Feedback
  The fluctuation theorem characterizes the universal properties of the entropy production far from equilibrium. In the presence of measurement and feedback by “Maxwell's demon”, the fluctuation theorem is generalized by incorporating information contents such as mutual information, elucidating the link between thermodynamics and information [1]. While the fluctuation theorem in classical systems has been thoroughly generalized under various feedback control setups, the role of information in thermodynamics in the quantum regime has not been fully revealed, despite its significance in quantum feedback control. In this talk, starting from a brief review of thermodynamics of information, I will focus on the generalized fluctuation theorem under continuous quantum measurement and feedback [2]. The relevant information content is the quantum-classical-transfer (QC-transfer) entropy, which can be naturally interpreted as the quantum counterpart of transfer entropy that is commonly used in classical time series analysis. I will also demonstrate our theoretical result by numerical simulation based on an experiment-numerics hybrid verification method. These results reveal a fundamental connection between quantum thermodynamics and quantum information.
[1] J. M. R. Parrondo, J. M. Horowitz, and T. Sagawa, Nature Phys.11, 131–139 (2015).
[2] T. Yada, N. Yoshioka, T. Sagawa, Phys. Rev. Lett. 128, 170601 (2022).

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:Krzysztof Piotrzkowski氏 (AGH Krakow, Poland)
日時:2022年9月21日(水曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:Future High Energy ep Colliders and gamma-gamma Interactions
   Exploiting energy-recovery linac technology, an intense electron beam can be brought into collisions with a hadron beam from the High-Luminosity LHC, concurrently with the hadron-hadron collisions. The expected very high ep luminosity at 1.2 TeV of the center-mass-energy opens a vast and unique research field, on top of exciting studies of the eA collisions. In this lecture I will review the LHeC developments as well as discuss the concept of new general purpose detector and its physics scope. Then I will discuss in more detail the high energy photon-photon interactions at the LHeC (and FCC-eh), opening new frontiers in the electroweak physics as well as in searches for physics beyond the Standard Model. Despite very high ep luminosities, the experimental conditions will be very favorable for such studies - a negligible event pileup will allow for unique measurements of a number of processes involving the exclusive production via photon-photon fusion.

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:松村 武氏(広島大学 大学院先進理工系科学研究科)
日時:2022年8月9日(火曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:希土類キラル磁性体RNi3X9 (X=Al, Ga)におけるらせん磁気秩序
   結晶構造と磁気構造のあいだには対称性に縛られた密接な関係があり,その最も低対称な場合が,反転中心も鏡映面ももたないキラル磁性体である.結晶の対称性はスピン軌道相互作用を通して磁気構造に反映され,らせん磁気秩序であれば巻き方が右型結晶と左型結晶で逆になる.その基になるDM相互作用は,磁場中でのキラル磁気ソリトン格子のように,トポロジカルに保護された特有の構造をもたらす.d電子系ではCrNb3S6,f電子系では Yb(Ni,Cu)3Al9系が典型である.立方晶EuPtSiにおけるスキルミオン格子も同様であるが,f電子系金属間化合物ではRKKY相互作用による対称相互作用が主であり,らせん周期が極めて短距離になる点がd電子系と異なる特徴である.一方,DyNi3Ga9という物質では,Dy の大きな軌道角運動量を反映して強的な電気四極子秩序が発生する.強い異方性が現れるはずだが,転移温度直下では等方的ならせん磁気秩序が観測されており,様々なエネルギーが競合した状況にあると考えられる.いずれも,磁気相互作用の詳細は未解明で研究途上にある.低温磁場中における共鳴X線回折実験を通して得られた最近の研究について紹介する.
[1] T. Matsumura, Y. Kita, K. Kubo, Y. Yoshikawa, S. Michimura, T. Inami, Y. Kousaka, K. Inoue, and S. Ohara, JPSJ 86, 124702 (2017).
[2] M. Tsukagoshi, T. Matsumura, S. Michimura, T. Inami, and S. Ohara, Phys. Rev. B 105, 014428 (2022).

なお、この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねています。


講師:Pablo Soler Gomis氏 (Institute of Basic Science)
日時:2022年8月4日(木曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:Particle Physics and Cosmology in the Swampland
  String Theory is, without a doubt, the most promising candidate to unify in a consistent setup all fundamental interactions of Nature. It accommodates both General Relativity and Quantum Field Theory in a single framework, and hence has the potential to describe all physical phenomena experimentally observed, from Particle Physics to Cosmology. Yet, the connection between the fundamental aspects of String Theory to its phenomenological consequences is highly involved and full of surprises. It has been recently realized that only a small subset of low energy models of Cosmology and Particle Physics are compatible with Quantum Gravity (i.e. with String Theory). In this talk, I will describe some of the conjectural properties that distinguish such consistent models (the “Landscape”) from theories that cannot accommodate gravity (the “Swampland”) and discuss a few of their phenomenological implications, e.g. to Dark Matter and Early Universe Cosmology.

なお、この談話会は特別講義「Quantum aspects of black holes: an introduction」の講義も兼ねています。


講師:木村尚次郎 氏(東北大学・金属材料研究所)
日時:2022年5月26日(木曜日)17:00-
場所:Z103室(対面)
題目:遷移金属錯体[MnIII(taa)]における二次の電気磁気効果
  電場によって磁化 、磁場によって電気分極をそれぞれ誘起する電気磁気効果が磁気秩序したいくつかの磁性体で観測されることが知られているが、磁気秩序を持たない常磁性体であっても、その結晶が空間反転対称性を持たない圧電結晶であれば二次の電気磁気効果によって磁場の二乗に比例した電気分極を誘起することができる[1]。談話会では、空間反転対称性を持たない遷移金属錯体[MnIII(taa)]で観測された二次の電気磁気効果について紹介する。この物質では、MnIIIのd軌道の縮退により錯体分子に生じるヤーンテラー歪みが磁場の印加によって整列するため、歪みにより生じた電気双極子が配向して比較的大きな磁場誘起の電気分極が観測される[2]。
[1] S. L. Hou and N. Bloembergen: Phys. Rev. 138 (1965) A1218.
[2] Y. Otsuki, S. Kimura, S. Awaji and M. Nakano: Phys. Rev. Lett. 128 (2022) 117601.

なお,この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねます.


2021年度

講師:Ilya Sheikin 氏(LNCMI-Grenoble, CNRS)
日時:2022年2月1日(木)17:00〜
場所:オンライン(zoom)
題目:The mystery of CeRhIn5 in high magnetic fields
要旨はこちら をご覧ください。
 
なお,この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねます.


講師:尾田 欣也氏(東京女子大学教授)
日時:2021年12月23日(木)17:00〜
場所:理学部 Z103教室
題目:インフレーションで探る重力スケール
 量子重力は過去1世紀以上にわたって人類を悩ましてきた難問です。一方で素粒子論と宇宙論は目覚ましい進展を遂げ、それぞれ、標準模型と標準宇宙論が確立しました。しかし後者の基盤となる初期宇宙のインフレーションがどうやって起こったのかは未だ議論の的です。今後10〜20年ぐらいで観測の更なる進展が期待される、インフレーション中のスカラー場(インフラトン)や重量子の量子揺らぎの観測から、どのくらい量子重力に迫れるのか、という動機で色々研究してきたことを紹介します。

なお,この談話会は先端融合科学特論Aの講義を兼ねます.


講師:鈴木 通人氏(東北大学 金属材料研究所 計算材材料学センター)
日時:2021年12月9日(木)17:00〜
場所:理学部 Z103教室
題目:磁性表現論と第一原理計算による磁性体の物性解析
   ポスター


講師:溝口 幸司氏(大阪府立大学 理学系研究科 教授)
日時:2021年12月3日(金)17:00
場所:オンライン開催
題目:Optical Response of Dirac Electrons in Topological Insulator Films
   (トポロジカル絶縁体薄膜におけるディラック電子の光学応答)
 We report on the optical response of Dirac electrons in topological insulator (TI) films fabricated on sapphire substrates under optical pulse excitations with various optical polarizations. The photocurrents generated in Bi2Te3 topological insulator films have been investigated by THz-wave measurements and time-resolved magneto-optical Kerr effect (MOKE) measurements. The THz waves radiated from the TI films indicate that the photocurrents in the surface layer of the TI film have been generated by optical circularly polarized pulses and the directions of photocurrents are inverted between the excitations of right- and left-circularly polarized pulses. Moreover, the sign inversion in the MOKE signals is observed under the excitations of right- and left-circularly polarized pulses. These inversions of the obtained signals between the right- and left-circular polarizations demonstrate the generation of the spin-polarized photocurrents by Dirac electrons, which results from the spin-momentum locking in the energy dispersion relationship of Dirac electrons.

Reference:
H. Takeno, S. Saito, and K. Mizoguchi, “Optical control of spin-polarized photocurrent in topological insulator thin films”, Scientific Report 8, 15392 (2018).


講師:丸山 和純氏(高エネ研 素粒子原子核研究所 准教授)
日時:2021年12月2日(木)17:00〜18:00
場所:理学部 Z103教室(対面)
題目:ステライルニュートリノの探索の現状と展望
 このセミナーでは、ステライルニュートリノと呼ばれる弱い相互作用を行わないニュートリノの探索の現状と展望を紹介する。軽いステライルニュートリノは1990年代に行われたLSND実験の結果を説明するために導入され、それ以降、MiniBooNE実験や原子炉実験、Gaを用いた実験などで存在が示唆されているが、νμの消失実験等では存在に否定的な結果が出され、混沌とした状態が続いている。最初に世界の探索状況を紹介した後、LSND実験の直接検証を目指し、J-PARCで2021年から本格的にデータ取得を開始したJSNS2実験の状況・展望についても紹介する。
ポスター


講師:山本 大輔氏(日本大学 文理学部 准教授)
日時:2021年12月1日(水)17:00~18:00
場所:理学部 Z103教室(対面)
題目:圧力によって磁性体の性質を古典から量子まで能動的に制御する
 このセミナーでは、神戸大学分子フォトサイエンス研究センターで行われた結合スピン鎖反強磁性体CsCuCl3の圧力下磁気測定実験に対する理論解析[1]を中心に、固体物質における量子力学的な性質の能動的コントロールに関して議論する。‟量子数”の極めて大きい極限において量子物理学の結果は古典物理学の結果に帰着すべし、という「対応原理」は、量子論と古典論との整合性のために量子力学の黎明以来広く尊重されてきた。本研究では、ピストンシリンダーセルを用いた圧力印加によって磁性体CsCuCl3の磁気量子数を実効的に変化させ、その性質を古典的なものから量子的なものに変化させるという試みに関して紹介する。

[1] Continuous control of classical-quantum crossover by external high pressure in the coupled chain compound CsCuCl3, Daisuke Yamamoto, Takahiro Sakurai, Ryosuke Okuto, Susumu Okubo, Hitoshi Ohta, Hidekazu Tanaka, and Yoshiya Uwatoko, Nature Communications 12, 4263 (2021).
ポスター


講師:石川 明正氏(素粒子原子核研究所 准教授)
日時:2021年11月17日(水)17:00
場所:理学部 Z103教室
題目:Belle II 実験における消えた反物質と暗黒物質の謎の探索およびレプトン普遍性の破れ
 Belle II 実験の前身である Belle 実験は、素粒子標準理論の根幹をなす小林益川理論を実証し、成功裏に実験を終えた。しかしながら小林益川理論では 粒子反粒子非対称性が小さく、消えた反物質を説明出来ないことも確定し、素粒子標準理論を超える物理=新物理が必要となる。また、宇宙に存在する暗黒物質の候補が素粒子標準理論には無く、これも新物理を必要とする。LHCで暗黒物質 候補が未だ見つかっていないことから、近年軽い暗黒物質に注目が集まっている。Belle II 実験では小林益川理論を超える新たな粒子反粒子非対称性の探索と、軽い暗黒物質に関連する粒子の探索から、宇宙の二つの大問題である消えた反物質と暗黒物質の謎の解明に挑む。また、近年標準理論を超える物理の徴候として話題になっているB中間子崩壊でのレプトン普遍性の破れについても紹介する。


講師:鈴木 孝至氏(広島大学大学院先進理工系科学研究科)
日時:2021年8月10日(火)17:00-18:00
場所:オンライン開催
題目:DyNiAlにおける異なる結晶軸に対する磁場印加による強的4極子秩序変数のスイッチング
 DyNiAlは六方晶結晶構造をもち,TC =30 KとT1 = 15 Kでそれぞれ強磁性相および反強磁性相へ逐次磁気相転移することが知られていた。本物質の4f電子は局在性が顕著であることから,結晶場状態や磁気相図を明らかにするため磁場中弾性率実験を丹念に行った。この結果から,意図しない面白い性質が見つかったので報告する。まず,本物質は六方晶構造をもち4f電子の結晶場状態はクラマース2重項だけで構成され電気4極子の縮重をもたないにもかかわらず,強的4極子秩序することを見出した。さらに,磁場中では4極子が強的に秩序した磁場誘起相が存在する。その磁場誘起強的4極子秩序変数は磁場方向を[100]方向と[001]方向に印加した場合,それぞれOxyとOyzにスイッチする1)。強的4極子秩序状態はマクロな自発歪みを伴うことから,新しいマルチフェロイックスとみることも出来るかもしれない。
1) I. Ishii et al., Phys. Rev. B 103, 195151 (2021).


講師:白井 伸宙 氏(三重大学・総合情報処理センター)
日時:2021年8月4日(水)17:00-18:00
場所:オンライン開催
題目:自己回避ウォークで探る高分子ゲルの負のエネルギー弾性
 近年、高分子ゲルの弾性率について、新しい実験的な発見があった。負のエネルギー弾性である [1]。これはこれまでゴム弾性の理論をそのまま借用して理解されてきた高分子ゲル弾性の熱力学に修正を迫る。本研究では、高分子ゲルにおける負のエネルギー弾性の微視的な起源を明らかにするため、自己回避ウォークを土台としたモデルを構築して統計力学的な解析を行なった。結果、負のエネルギー弾性の温度変化の振る舞いとその起源を定性的に説明することに成功した。本研究は、作道直幸氏(東大)との共同研究に基づく。
[1] Y. Yoshikawa, N. Sakumichi, U. I. Chung, and T. Sakai, Phys. Rev. X 11 (2021) 011045.


講師:井岡 邦仁 氏(京都大学・基礎物理学研究所・教授)
日時:2021年6月3日(木)17:00-18:00
場所:オンライン開催
題目: The Decade of Electromagnetic Counterparts to the Gravitational Wave Event GW170817
 アインシュタインが一般相対性理論を提唱して100年目の2015年9月14日にブラックホールの合体からの重力波 GW150914 が直接検出された。2017年8月17日には2つの中性子星の合体からの重力波 GW170817 も発見され、同時にガンマ線バーストや巨新星(キロノバ)など、あらゆる波長の電磁波も観測された。まさに本格的なマルチメッセンジャー(全粒子天文学)時代の到来を告げる歴史的イベントとなった。本講演では、特に、GW170817 で発見された電磁波対応天体を解説し、まだ観測され続けている対応天体がこの10年でどうなるのか?を展望する。 

2020年度

講師:髙橋 一史 氏(神戸大学理学研究科・助手)
日時:2021年1月14日(木)17:00-18:00
場所:理学部Z103教室
題目: 重力理論の拡張に関する最近の話題:オストログラドスキーの定理 
 宇宙の加速膨張を引き起こすダークエネルギーは一般相対論に基づく現代宇宙論の最大の謎であり、これを説明する試みとして一般相対論を拡張した重力理論の枠組みが盛んに研究されている。代表的なものは一般相対論にスカラー場を1つ加えた理論(スカラーテンソル理論)である。スカラー場という新たな自由度をラグランジアンに導入するにあたり、どのような相互作用が許されるかは非自明な問題だが、この問に対する一つの答を与えるのがオストログラドスキーの定理である。定理によれば運動方程式が高階微分を含むような理論には不安定な自由度(ゴースト)が存在するため、整合的な理論を構築するためにはこのゴーストを回避する必要がある。本講演では、解析力学の模型を用いてオストログラドスキーの定理のエッセンスを解説した上で、ゴーストのないスカラーテンソル理論に関する最近の進展を紹介する。


講師:大槻 純也 氏(岡山大学異分野基礎科学研究所)
日時:2020年12月17日(木)17:00~
場所:理学部Z103教室
題目:強相関電子系に対する理論計算法の最近の発展:動的平均場法とスパースモデリング
 遷移金属元素や希土類元素を含む強相関化合物では、強いクーロン斥力に起因して、磁性や超伝導などの有用な物性が発現する。強相関化合物では「量子多体効果」が顕著なため、第一原理に基づく電子構造計算の応用はこれまで限定的であった。近年、低エネルギー有効模型を扱う量子多体論を電子構造計算に応用する研究が進んでおり、第一原理計算の応用範囲が広がってきている。本講演では、その中でも特に成功を収めているDFT+DMFT法を概観する。最近の進展として、スピン・軌道感受率を用いた相転移の検出法[1]を紹介し、その応用として、Feにおける強磁性やCu化合物における軌道秩序について議論する。また、我々が公開しているDFT+DMFT計算ソフトウェアDCoreを紹介する[2]。後半では、筆者らが最近取り組んでいるスパースモデリング[3]と呼ばれるデータ科学法の応用と今後の展開についても議論したい。

参考文献
[1] "Strong-coupling formula for momentum-dependent susceptibilities in dynamical mean-field theory", J. Otsuki, K. Yoshimi, H. Shinaoka, Y. Nomura, Phys. Rev. B 99, 165134 (2019).
[2] "DCore: Integrated DMFT software for correlated electrons", H. Shinaoka, J. Otsuki, M. Kawamura, N. Takemori, K. Yoshimi, arXiv:2007.00901.
[3] "Sparse Modeling in Quantum Many-Body Problems", J. Otsuki, M. Ohzeki, H. Shinaoka, K. Yoshimi, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 012001 (2020).


講師:松本 正茂 氏(静岡大学理学部・教授)
日時:2020年12月14日(月)17:00-18:00
場所:オンライン開催
題目: 三角格子反強磁性体CsFeCl3における磁気励起
 フラストレーションのある磁性体では、様々な秩序状態が出現する。三角格子反強磁性体CsFeCl3はそのような物質の1つであり、日本を中心に古くから研究され、磁場や圧力による量子相転移によって、ノンコリニアな120°構造の磁気秩序が安定化することが知られている。最近、圧力下の量子相転移に伴う磁気励起の変化が中性子散乱で観測され、磁気モーメントの縦揺らぎと横揺らぎが結合した、珍しい励起状態が報告されている。これを理論的に解析し、ノンコリニアな構造に付随した磁気励起の性質について、詳しく紹介する。


講師:上田 宏氏(理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS))
日時:2020年11月25日(水)17:00~
場所:オンライン開催
題目:テンソルネットワーク法×HPCによる古典統計模型解析の最前線
一様離散格子上の古典統計模型の解析を数値的に高精度で行う手法の一つとしてテンソルネットワーク(TN)法がある。極めて最近、TN法の一種である高次特異値分解を利用したテンソル繰り込み群(HOTRG)法やテンソルネットワーク繰り込み(TNR)法を用いて、q状態クロック模型(5≦q≦9)に現れるBerezinskii-Kosterlitz-Thouless転移点とその転移点に挟まれた臨界相を特徴づける共形変数(コンパクト化半径など)も高精度に評価できることが示され[1,2]、TN法への注目がさらに集まっている。講演者らも、TN法の一種である角転送行列繰り込み群(CTMRG)法に大規模並列化を施し、多内部自由度を持つ古典統計模型に現れる非自明な相転移とその臨界性の同定を行ってきた[3-5]。本座談会ではTN法の計算原理を紹介しつつ、上述のようなTN法の最近の応用例について紹介していきたい。

[1] Z.-Q. Li et al., Phys. Rev. E 101, 060105(R) (2020).
[2] G. Li, K. H. Pai, and Z.-C. Gu, arXiv:2009.10695
[3] H. Ueda et al., Phys. Rev. E 96, 062112 (2017).
[4] H. Ueda et al., Phys. Rev. E 101, 062111 (2020).
[5] H. Ueda et al., Phys. Rev. E 102, 032130 (2020).

講師:南條 創氏(大阪大学 理学研究科)
日時:2020年11月18日(水)17:00~
場所:理学部Z103教室
題目: K中間子の稀な崩壊を用いる新物理探索の現状と展望 
K中間子の稀な崩壊、KL->π0νν崩壊は素粒子標準理論では強く抑制され、崩壊分岐比の予測が正確であるので、分岐比のズレを通して新物理に敏感である。J-PARCではKOTO実験が2013年からこの崩壊の探索を開始し、背景事象の理解と削減を進め、探索感度を一桁以上向上し、世界最高感度を達成している。 K中間子の稀崩壊を用いる新物理探索についてKOTO実験と世界の情勢をまとめ、将来の展望についても紹介する

講師:佐藤 昌利氏(京大基礎物理研究所・教授)
日時:2020年11月13日(金)17:00-18:00
場所:理学部Z103教室
題目:トポロジカル相の新しい潮流:非エルミート・トポロジカル相
 トポロジカル絶縁体の発見以来、従来の自発的対称性破れの概念では捉えることのできない相構造が物質世界に広く遍在していることが認識され、多くの研究がなされてきた。トポロジカル相の概念を超伝導体に拡張した「トポロジカル超伝導体」、対称性とトポロジー両方を考慮することで生じる「対称性に守られたトポロジカル相(SPT)」など多くの新概念が導入されると同時に、マヨラナ励起などの新しい励起状態も発見され、トポロジカル相に関する包括的な分類がなされるとともに、研究分野も物性物理に留まらず、素粒子論や数学などにも幅広い分野に影響を与えるに至っている。 この講演では、このトポロジカル相の新しい潮流として、現在物性物理で活発に研究されている非エルミート・トポロジカル相の話題を取り上げる。通常ハミルトニアンはエルミートであると仮定されるが、この仮定は必ずしも自明ではなく、相互作用、不純物、あるいは環境の影響などでハミルトニアンはしばしば非エルミートとなる。このような非エルミート性は単に不安定性を生じさせるだけでなく、新しいトポロジカルな相構造や現象を可能とする。最近の我々の研究を中心に非エルミート・トポロジカル相について基礎的な内容を中心に解説を行う。

講師:日高 義将氏(高エネルギー加速器研究機構・教授)
日時:2020年11月6日(金)17:00-18:00
場所:理学部Z103教室
題目:自発的対称性の破れに関する最近の話題: 開放系から高次対称性まで
 連続対称性が自発的に破れると南部ゴールドストンモードと呼ばれるギャップを持たない励起が現れる.固体中の音波や強磁性体中のスピン波がそれに当たる.南部ゴールドストンの定理は,場の量子論において定式化され,物性系の様な非相対論系や,さらには,エネルギーや運動量が保存しない開放系にも拡張されている.また,最近では,渦糸やドメインウォールのような広がりを持った物体に対する対称性とその自発的破れを考えることで光も南部ゴールドストンモードとして理解できる事が明らかになった.本講演では,これらの自発的対称性の破れと南部ゴールドストンモードに関する近年の発展を我々の最近の研究[1,2,3]を交えながら紹介する.

[1] "Counting Nambu-Goldstone modes of higher-form global symmetries," Yoshimasa Hidaka, Yuji Hirono, Ryo Yokokura, 2007.15901 [hep-th],
[2] "Rainbow Nambu-Goldstone modes under a nonequilibrium steady flow," Yuki Minami, Hiroyoshi Nakano, Yoshimasa Hidaka, 2009.10357 [cond-mat.stat-mech].
[3] "Spontaneous symmetry breaking and Nambu–Goldstone modes in open classical and quantum systems," Yoshimasa Hidaka, Yuki Minam, PTEP 2020 (2020) 3, 033A01, 1907.08241 [hep-th].


2019年度

講師:前田 恵一氏(早稲田大学・理工学術院・教授)
日時:2020年1月10日(金)15:00-16:00
場所:理学部Z103教室
題目:階層的三体系からの重力波
内軌道と外軌道の2つの軌道から構成される階層的三体系では、2つの軌道間の軌道傾斜角と内軌道の離心率の間に起こるKozai-Lodov振動が特徴的である。離心率変化は重力波放出に大きな影響を与えるため、階層的三体系からの重力波は興味深い振る舞いを示す。ポスト・ニュートン近似のEIH方程式を数値的に解き、Kozai-Lodov振動が起こる場合の重力波放出の影響について解析し、連星パルサーのまわりに3番目の天体が存在する場合、近星点移動曲線に屈折が現れることを明らかにした。また階層的三体系から放出される重力波の性質を調べ、放出重力波はDECIGO(またはBBO)では観測可能であることを示した。
ポスター


講師:成木 恵氏(京都大学・准教授)
日時:12月18日(水)17:00-
場所:理学部 Z103教室
題目:J-PARCにおけるハドロン物理
 2009年より稼働したJ-PARCにおいて、中間子や陽子などのハドロンビームを用いたハドロン物理実験が行われている。これまでに行われた実験を概観するとともに、特に、来年2月に完成する新しいビームラインで展開される実験研究について紹介する。 J-PARCでは大強度陽子ビームによって得られる二次粒子を実験に用いているが、これに加え、新たに一次陽子が利用可能となる。pA反応では生成した中間子が原子核密度下におかれるため、QCD凝縮が融けてハドロンの質量が変化することが期待される。一次陽子ビームを原子核標的に照射し、高レート耐性を持つ高分解能スペクトロメータによって中間子のレプトン対崩壊をとらえる実験がまもなくスタートしようとしている。この実験(J-PARC E16実験)の現状と見通しを紹介する。 また、ストレンジネスあるいはチャームを含むバリオン分光研究や、中間エネルギー領域における重イオンビームを用いたハドロン実験のプロジェクトも立ち上がっている。これらの将来計画についても紹介したい。
ポスター


講師:新田 宗土 氏(慶應義塾大学・教授)
日時:11月13日(水)16:00-
場所:理学部 Z103教室
題目:多成分系の渦やソリトン:
   多成分超伝導・超流動、高密度QCD、2ヒッグス・ダブレット模型を通して
 渦は自然界の様々なところに存在している。台風も渦の一種であるが、 超流動体、超伝導体、冷却原子気体では渦が「量子化」された量子渦と なっている。回転する超流動体や磁場下の超伝導体では、渦が本質的な 役割を果たす力学的自由度となる。そのような量子渦は場の量子論にお いてトポロジカル・ソリトンの一種として自然に理解でき、また宇宙に おける宇宙ひもの候補となる。  さて、従来型のs波超伝導や超流動、1種類のボース原子気体では、渦 の構造が単純であるのに比べて、多成分の超伝導や超流動などでは、渦 が多様な構造を持つことが知られている。そのような例として、中性子 星内部にある核物質において、特に密度の高いコアで実現されると思わ れるトリプレットP波超流動における多種多様な渦や、さらに高密度で生 じるQCDのカラー超伝導状態における非アーベリアン・カラー磁束がある。 また素粒子物理学においては、標準模型を超える2ヒッグス・ダブレット 模型でも同様の渦が存在する。これら幅広い系での渦やソリトンの構造 について紹介する。
ポスター


講師:田中 秀数 氏(東京工業大学理学院物理学系・教授)
日時:10月29日(火)17:00-
場所:理学部 Z103教室
題目:スピン1/2三角格子及び籠目格子反強磁性体の磁気励起
スピン1/2三角格子及び籠目格子Heisenberg反強磁性体はフラストレートした量子磁性体の典型的なモデルで,強いフラストレーションと量子効果によって顕著な量子多体効果を示す。S=1/2三角格子Heisenberg反強磁性体(Heisenberg TLAF)では,量子多体効果によって,磁場中で3つの部分格子がつくるup-up-down構造が有限の磁場範囲で安定化され,磁化曲線に飽和磁場の1/3にプラトーが現れることがよく知られている。S=1/2 Heisenberg TLAFの良いモデル物質としてBa3CoSb2O9がある。この物質では1/3磁化プラトーが実験で確認されている[1]。S=1/2 TLHAFの磁気励起については,理論的研究が活発に行われている。しかし,単一マグノン励起について一定のコンセンサスはあるが,連続励起については殆んど分かっていない。我々はBa3CoSb2O9の磁気励起をJ-PARC, MLFに設置された分光器AMATERASを用いて広い運動量・エネルギー空間で調べた[2]。得られた励起スペクトルの特徴は,(1) 3段のエネルギー構造を持つ。(2) 1段目は単一マグノン励起からなり,分散関係は高エネルギーで大きく低エネルギー側に再規格化される。また,M点にロトン的極小が現れる。(3) 2段目と3段目は分散のある強い連続励起からなり,連続励起は交換相互作用の6倍以上の高エネルギーまで続く。これらの実験結果は秩序状態からでもスピノンなどの分数スピン励起が起こり得ることを強く示唆している。 次に,S=1/2籠目格子Heisenberg反強磁性体(Heisenberg KLAF)であるが,基底状態に関しては理論研究が精力的に行われていて,量子力学的な無秩序状態になることが知られている。しかし,その具体的な状態については今なお議論が続いている。一方,磁気励起については,基底状態が分からないこともあり,理論的コンセンサスはない。実験ではモデル物質の探索が精力的に行われ,ZnCu3(OH)6Cl2などの物質が知られている[3]。Cs2Cu3SnF12は我々が開拓したS=1/2 KLAFである[4]。Cs2Cu3SnF12の基底状態は大きなDzyaloshinskii- Moriya相互作用によって正のchiralityをもつq=0構造の秩序状態になる[5]。我々はCs2Cu3SnF12の磁気励起をJ-PARC, MLFに設置された分光器4SEASONSを用いて広い運動量・エネルギー空間で調べた[6]。以下に主な結果をまとめる。(1) 散乱強度は籠目格子の幾何学を反映して,2次元逆格子空間でBZの2倍の周期構造を持つ。(2) 文献[6]で報告されたように,単一マグノン励起のエネルギーが波数ベクトルに依存せず,殆ど一様に低エネルギー側に再規格化される。(3) 強い連続励起が存在し,交換相互作用の2.5倍以上の高エネルギーまで続く。この実験結果から,S=1/2 KLAFでも分数スピン励起の存在が示唆される。
[1] Y. Shirata et al., Phys. Rev. Lett. 108, 057205, T. Susuki et al., ibid. 110, 267201 (2013).
[2] S. Ito et al., Nat. Commun. 8, 235 (2017).
[3] M. P. Shores et al., J. Am. Chem. Soc. 127, 13462 (2005).
[4] T. Ono et al., Phys. Rev. B 79, 174407 (2009).
[5] T. Ono et al., J. Phys. Soc. Jpn. 83, 043701 (2014).
[6] R. Takagishi et al., unpublished data.
ポスター


講師:森前 智行 氏(京大基礎物理学研究所・講師)
日時:7月4日(木)17:00-
場所:理学部 Z103教室
題目:量子スプレマシーと量子計算の検証
 量子ビットを好きなだけ用意でき、任意の量子アルゴリズムを 走らせることができる完全な量子計算機を作るのは研究者たちの 一つの究極のゴールであるが、それはまだまだ遠い未来のことで ある。そこで、現在、「弱い」量子マシンをとにかくまずはつく り、それが古典計算機を超越していることを示そうとする研究 「量子スプレマシー」が盛んに行われている。量子計算が意味が あるのはそもそも古典計算機でシミレートできないからであるが、 それがあだとなってしまい、量子計算機の動作チェックに量子計 算機が必要となるという皮肉なジレンマに陥ってしまう。量子計 算機無しで量子計算の正しさをチェックできるか、という問題は、 「量子計算の検証」とよばれ、量子スプレマシーや量子クラウド の検証という実用的な重要性から、近年活発な研究が行われてい る。本講演では、その二つのテーマについて最新の研究成果を報 告する。
ポスター


講師:服部 一匡 氏(首都大学東京・准教授)
日時:6月26日(水)17:00-
場所:理学部 Z103教室
題目:電気四重極子の秩序とその特異な磁場効果
固体中の電子による自発的対称性の破れは、強磁性・反強磁性磁気秩序や電荷秩序に馴染みが深い人が多いと思われるが、近年、異方的な電荷・磁荷分布をもつ「多極子」の自由度による秩序に注目が集まっている。それらは一風変わったーーつまり通常の磁性体などと違ったーー磁場効果や外場応答を我々に見せてくれる。本講演では近年精力的に研究がなされているPr化合物と関係したダイヤモンド構造上の電気四極子の秩序を例に、反強四極子秩序の統計力学的模型の古典モンテカルロシミュレーションの結果、ダイヤモンド構造上の反強四極子秩序における反転対称性の破れに起因する電気(電流)磁気効果の解析、および強四極子秩序における特異な磁場誘起相転移について、対称性によりどのように説明されるかを強調しつつ紹介したい。
ポスター


講師:青木 大 氏(東北大学金属材料研究所・教授)
日時:5月22日(水)17:00-
場所:理学部 Y203教室→Z103教室(変更になりました。)
題目:ウラン化合物における超伝導と磁場誘起現象
強磁性と超伝導はお互いに相入れない物理現象だと考えられて来た。強磁性の強い内部磁場が超伝導クーパー対を容易に破壊するからである。ところが、いくつかのウラン化合物において強磁性と超伝導が微視的に共存する系が見つかって注目を集めている。これらの系であるUGe2、URhGe、UCoGeでは、スピン三重項による非従来型の超伝導が実現していることがわかっている。このため、磁場によるパウリ対破壊効果がなく、極めて高い超伝導上部臨界磁場Hc2を持つ。さらに、磁場を磁化困難軸方向に加えた時に、強磁性揺らぎが増強され、磁場誘起超伝導や磁場強化型超伝導などの劇的な超伝導相の変化が起きることがわかって来た。また、つい最近発見された超伝導体UTe2は、キャリア数の小さな強磁性秩序寸前の常磁性体であり、Hc2が発散的な増大を示すことがわかった。本講演では、これら強磁性体あるいは強磁性秩序寸前のウラン化合物超伝導の魅力を伝えたい。
ポスター


講師:上野 宗孝 氏(JAXA・技術主幹 / 理学研究科・客員教授)
日時:4月26日(金)17:00-
場所:理学部 Z103教室
題目:実験室実験の延長線上にある宇宙からの観測
宇宙開発の速度は第2の激動期に突入している.宇宙機開発や打上げロケットの多様化も進み,民間企業がしのぎを削る舞台へと変貌しつつある。宇宙科学の発展は,文字通り我々の活動領域の拡大と宇宙における技術進歩の恩恵を大きく受けてきている。 近年のトレンドである超小型衛星の活用は,宇宙への敷居を劇的に下げつつあり,宇宙での実験が宇宙機関だけのものでは無く,科学研究費規模の世界を作りつつある。 。
ポスター

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